透通る波 Z
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信頼は
その積み重ね方なのだろう
いくら信じていても
土台が揺らげば
あっという間に崩れてゆく
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元就の様子がおかしい。
本人が気付いているのか、気付いていないのか
その判断がつかねえ。
普通に何かあったかと聞いても、何も無いと。
嘘のナイ顔で返される。
これが前の元就なら、言いたくないんだって判る。
アイツは何でも隠すのが巧かったからさ。
けど、今の元就はそんなコトしねえ。
する必要がなかったってのも、あっけど。
俺に対して、何かを隠すってコトをしないじゃなく、知らねえ。
喜怒哀楽が、結構はっきりしてる。
嬉しいコトがあれば、笑う。
気に入らないと怒るし、俺とケンカになるとショボンとする。
一緒に居るコトを楽しんでいる。
苦にはしていない。
毎日、見てれば判るさ。
俺も同じだからさ。
罪悪感ってのは、ある。
俺の自己満足だ、と政宗にも言われたからな。
それは自覚してる。判ってる。
それでも、それを判ってても止めなかったんだから。
俺は背負ってく覚悟はしてる。
けどな。
今の元就に、それを知られるのは怖いんだよ。
姿形はクローンでも、中身は今の元就のモンだ。
だから。
俺のしたコトを知った時の元就が、どう思うのか。
正直、怖い。
何をどう言い繕ったって、言い訳にしかならねえ。
元就からしたら。
俺は、俺のしでかしたコトだからよ。
何、言われてもいいんだけどよ。
『Ha! アンタ、本当に馬鹿だよな』
政宗に言われた言葉が、頭を過ぎる。
物凄い数、言われる筈だ。
その度に、俺は苦笑いでしか返せなかった。
アイツの心配も心遣いも、ある意味踏み躙ってきてんだもんな。
聞く耳を持たなかった。
捨てた。
俺は、元就が欲しかったんだ。
失いたくなかった。
どんな形でも。
元就という個が、消えて無くなるのが。
俺は許せなかった。
そして、今に至っているんだ。
その分、罪が増やして。
けどな、その罪は俺だけのものだってのに。
元就が知ったら、どうなる?
いくら俺がいいと言っても、元就には元就なりの受け止め方をするだろう。
んで、苦しむんじゃねえかって。
自分ってものの存在に。
エゴでいい。
そんなモンを元就に味合わせたくは、ねえ。
味合う必要はねえ。
ああ、こうして俺のエゴはどんどん増えてくんだなあ。
全く、どうしようもねえ男だぜ、俺は。
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「元親、少し良いか?」
「ああ、いいけど、どうした?」
いつも通りに寝るベッドん中。
固定位置の腕枕に頭を乗せた元就が、不意に声を掛けてきた。
心臓が痛んだ。ズキリと。
「我からも聞いて良いか?」
「あ、何をだ?」
「最近、我に何かあったのではないかと元親は聞くが」
「ああ、うん」
「元親が何かあったのではないか?」
「えっ?」
今度こそ、心臓が跳ね上がった。ドクンと。
思わず至近距離の元就の顔を見ると、元就もしっかりと俺を見ていた。
「…そんなに驚いてしまう事なのか?」
「も、元就?」
「元親がいつも我を気遣ってくれているのは知っている。嬉しい。
だが、我も元親を心配とかしているのだ。
具体的な事など出来ないが、それでも心配なのだ。
元親の元気が無いならば、我は何かしたい」
「元就…」
「迷惑か? お節介か?
確かに、我は頼りないが、出来る事があればしたいのだ、元親の為に」
「サンキュ…」
目の奥が熱くなった。
それだけは誤魔化したくて、俺は元就の身体をぎゅうっと抱き締めた。
この儘、その目に見つめられたら。
俺は確実に泣くだろう。嬉しくて。切なくて。
「元親っ、苦しいっ」
「ありがとな、元就」
「聞いているのかっ」
「聞いてる聞いてる」
ジタバタと腕ん中で暴れる、元就の温もりが。
俺の心を満たす。
散々、悩んだ末に手に入れてるモンだ。
絶対に離すものか。俺は元就を。
「心配させてゴメンな、大丈夫だからさ」
「…本当にか?」
「本当に」
「そうか」
「元就がそうやって心配してくれたから、頑張るって。
だからな、大丈夫なんだ、ホントに」
「判った。では我は寝る。力を緩めろ」
「ハイハイ、おやすみ、元就」
「おやすみ」
「良い、俺の夢見てな」
「馬鹿者、元親もさっさと寝てしまえ」
「はいよ」
そうだ。頑張れる。
俺は元就の為なら、いくらでも頑張れるんだ。
だから、ドコにも行かないでくれな。
元就…。
2012.04.19 back
Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
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