透通る波 \


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後回し
臆病で卑怯で
そんな事ばかりをしているから
そんな事ばかりをやめられないから
きっとそのツケがくる

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「元就、ただいまっ」

思った以上のポカで、時間が掛かっちまった俺は。
大急ぎで、家に帰って来た。
何と言っても、元就が心配だからだ。
朝、飛び出して行っちまったから、元就も心配してるだろう。
メールはしてあっけど、やっぱ、顔を見て安心させてえ。
俺も安心してえし。

「元就?」

いつもなら、ドアの鍵を開ける音に気付いて元就は出迎えくれる。
玄関へと顔を見せてくれる。
…それが…ねえ。
まさか、元就に何かあったのか…。

「元就っ!」

俺は靴を脱ぐのももどかしく、放り投げるようにして。
玄関から上がり、一直線に元就を探しに俺は駆け込んで行った。


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一番に見たリビングには居なかった。キッチンにも。
ドコに居るんだ、元就。
ドンドンと気が焦ってく。いっくら呼んでも返事がねえのが拍車を掛ける。
元就の部屋を見ても居ねえ。次に寝室のドアを力一杯開けると。
ベッドの上が盛り上がってて、俺は脱力した。

居た。元就が居た。
それだけで、俺は泣きそうになった。
あの日。
目の前で、目を離さなくても、元就の姿を見てても、元就は居なくなった。
だから目を離した時に、元就が居なくなったら?
そん時、俺はどうなっちまうんだ?
その恐怖が払拭されたワケじゃねえ。
けど、今は、元就は居た。ココに居る。
俺は大きく息を吐いた。
とにかく、落ち着かねえと。
心臓の音が煩え。
もう一度、息を吸って吐いた。声を出せるように。

「元就、ただいま。どうしたんだ?」

毛布の小山がビクッと動いた。
起きてはいる。けど、起き上がらない。

「具合悪いのか?」
「…風邪を引いたようだ。だが大事ない。寝ていれば大丈夫だ」

確かに鼻声だ。口調もしっかりとしてる。
元就の言うように、寝てれば大丈夫な程度なのかもしれねえ。
けど。
けどな。
ナンだ、このざわつくカンジは。
ドクンと心臓が鳴る。まるで警告してるみてえに。

「元就」
「本当に大丈夫だ。心配を掛けて済まぬ」
「元就」
「元親、本当に…」
「元就っ」

大丈夫を繰り返す。けど、顔を毛布の中に隠したままで。
俺を見ようとしねえ。俺を遠ざけようとしてる。
それが判っちまった俺は、カッと頭に血が昇って。
ベッドへと近付き、毛布を元就から引き剥がした。

「元親っ」
「何があったんだ、元就。…泣いてたのか?」
「何も…」
「何もねえワケないだろ、目が真っ赤だぞ」
「…これは」

目を合わせたまま、元就の身体をベッドから抱き起こす。
元就が泣くなんて、一体何があったんだよ。
けど、問い詰め過ぎたらダメだよな。
落ち着け。落ち着け、俺。

「なあ、どうしたんだ、元就」
「………」

唇がキュッと引き結ばれる。
俺は元就を横抱きにして、一緒にベッドの上に座った。
顔を俺の胸んトコに埋めさせて、髪を撫でたり、背中を撫でてやったりした。
元就が落ち着けるように。

「なあ、元就。無理に話せとは言わねえからさ」
「………」
「話したくなったら話すでもいいしさ」
「………」
「待ってっから、元就が話してくれんの」

腕の中の元就の身体から少しずつ緊張が取れてきた。
強張ってたのが、少しずつ俺へと凭れてくる。
俺は元就からの言葉を待った。

「…元親」
「ん? ナンだ、どうした?」
「話さなくてはいけないのだろうか」
「んー、さっきも言ったけどよ、無理強いする気はねえって。
 けどさ、話してくんねえと判らないからさ」
「…そうか」

くぐもってはいるけど、元就の言葉はしっかりとしている。
これだったら、話してくれそうだ。
俺は又、元就の次の言葉を待つコトにした。
けど、待たなきゃ良かった。聞かなきゃ良かった。
時間、戻せるもんなら戻したくなった。
元就の質問に。

―――書斎にある写真に写っている我は、誰なのだ?

ずっと、守ってきたモンが壊れてゆく、元就の疑問を。
俺は、ずっと、聞きたくなかったんだ。





2012.05.06
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Twitterで呟いたネタ、アニキとクローン元就の話
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