世界で一番 −1−


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どう見ても見掛けは頼りない
けれど侮ると竹篦返しを喰らう
油断大敵
伸ばした手を噛まれないよう
充分に気を付けて

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「ふぇ〜、すげぇ家だな、サヤカ」
「阿呆な声を出すな、元親。それから名の方で呼ぶな」
「別にイイじゃねえかよ、アンタだって俺のコト…」
「けじめだ、判ったな」
「…ハイ」

俺は、長曾我部元親。
今日から務める就職先の家の前で、俺はそのデカさに呆れていた。
正に、お屋敷。
まあ、執事として務めんだから、お屋敷でいいワケだが。

「取り敢えず、紹介した私の顔を潰すような事だけはするな」
「ヘイヘイ」
「言葉遣い」
「痛ぇっ」

ボカッと殴られる。容赦なく。
注意と制裁、同時にすんなよ、全く。
殴られたトコを撫でていると、サヤカが俺を見上げてきた。

「兎に角、頑張れ。元親なら何とか出来る筈だろう」
「え? チョイ待ち、そんな面倒臭いトコなのかよ」
「行けば判る」
「おーい」

云うだけ云ってスタスタと歩き出したサヤカの後を。
俺は慌てて追っ掛けて、一緒に屋敷の中へと入っていった。


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「失礼します」

一礼して、直接の雇い主、この家の当主の部屋へと入る。
すげ…ナンだ、この部屋は。
屋敷の外観も凄かったし、中に入れば入ったで凄かったが。
ココが一番、凄え。豪華で重厚。素人目にも判るくらいの金持ちだ。
確か、由緒もあるんだよな。旧華族の財閥とか、ナンとか。
そう、サヤカが云ってたよな。
だから、行儀良くしろって…余計なお世話だ。
これでも、一応執事の学校、主席で卒業したんだからな。
新米だろうが、やってやろうじゃねえか。
立派にこの屋敷の執事を務めてやるぞ。

「ご依頼を頂いた執事を連れて参りました」

サヤカが頭を下げるのと一緒に、俺も頭を下げる。
けど…あれ? 今、誰かいたか?
椅子と机はあった。頭を下げる前に見た。
けど、そこに人はいたか? 誰もいなかったような…。

「うむ、ご苦労」

あ、いたいた。声が…って、随分と高い声だな。
それに…。

「こちらの男になります」
「我の要望通りなのだな」
「はい、それは直接お確かめ下さい」

おいおい、何2人して勝手なコト云ってんだよ。
俺は冷静に顔を上げ、身体を起こし、今日から俺が仕える相手を見据えようと。
え?

「おいっ、サヤカ、ナンだ、このチビっこは!」
「静かにしないか、元親」
「いやっ、静かにとかの問題じゃねえだろ、当主はドコだよ!」
「烏め。目の前のこの御方がそうだ」
「はあーーーーーっ?」

目の前。目の前って、ちっこいガキが一人しかいねえじゃねえか。
コレか? コレが当主だって云うのか? この屋敷の?

「…ウソだろ?」
「本当だ。現実を直視しろ」
「ちょ、直視しろって、おい、コレをかっ」
「そうだ。毛利家現当主、元就様だ」

座っていた椅子から降りて来て、俺の真ん前にその当主が歩いて来た。
確かに、子供服じゃなくスーツを着ている。
七五三には見えねえくれえに、着こなしている。
男の子…だよな?
日本人形みてえな顔立ちに、肩までのストレートの髪なんで。
一見、女の子にも見えちまうが…男だ、コレは。間違いなく。

「雑賀、この男は本当に役に立つ者なのか」
「はい、この様にがさつではありますが、必ずお役に立ちます」
「そなたの言葉なら信用するしかないか」
「ありがとうございます」

おいこらっ、本人を前にしてナンつー会話してんだ。
サヤカの辛口の言葉には慣れてっけど、子供から云われっと腹立つぞ。
しかも、初対面だろうが。
子供のクセに、ナンつー尊大な言い方すんだよ。
これは、俺がちゃんと教えてやんねえと…。

「長曾我部」
「は?」
「我が今日から貴様の主だ。しっかりと我の役に立つ様、心懸けよ」
「は?」
「判ったなら、きちんとした返事をしないか」

プッツン――俺の堪忍袋の緒が切れた。
これは最初っから、きちんと判らせてやんねえとならないなって。
俺が大人の対応をしてやんねえとな。

「なあ、おい、元就だっけ。
 子供は子供らしくだな、そんな背伸びしたコトしなくてもいいんだぜ?
 俺だから、広い心で許してやれっけどよ、大人にそんな口をきくもんじゃないぞ。
 なっ、元就?」

真下にある頭をポンポンと撫でてやる。
黙って聞いてるトコは、可愛いじゃないか。
そうだ、子供は素直なのが一番だ。
俺は更にクシャクシャっと髪を撫でてやった。

「こっ」
「ん? 何だ?」
「この無礼者っっっ!!!」

ダンッと大きな地響きなようなでっかい音と共に。
俺は、俺の主に思いっ切り足を踏まれてしまっていた。





2012.06.21
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とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元親視点、先ずはご対面でーす