世界で一番 −10−
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追い着きたい
追い抜きたいのが目的ではなく
ただ
その隣に並んでみたいだけ
同じ位置に立ちたいだけ
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まだまだ、だ。
中学へと進学し、小学生の時より背は確実に伸びたが。
まだまだ、長曾我部の背には届かない。
あの大男に追い着くのには、並大抵ではないだろうが。
いつまでも、見下ろされるのは癪に障る。
それを長曾我部本人が判っているのも、だ。
いつになったら、追い着けるのか。
せめて、もう少し…。
いや、泣き言など云うものではない。
我はこれからが、成長期なのだ。
既に、大人の長曾我部はもうこれ以上高くはならないだろう。
ならば、我にも勝機はある筈だ。
…いくら、可能性が低いだろう事が判っていても。
この毛利を継いだ時から、長曾我部は我に仕えておる。
殆どの毎日を共に過ごしている。
長曾我部は片時も我から離れようとしない。
旦那さまと呼び、付き従う。
基本の姿勢は、変わらぬ。それこそ、ずっと。
常に傍に居る、長曾我部は。
いつも、我を第一に考えて行動をする。
それは執事のあるべきスタンスであるから、良い。
ただ、それに加えての事がある。
行き過ぎでは無いかと、多々思うが。
当の長曾我部は、当然とばかりの顔をし、態度を改める事も。
緩める事もせぬ。
『旦那さま、これ以上の仕事はオーバーワークですので』
『長曾我部、書類を返せ』
『至急の物への決済は終わっております』
『ならば、次の書類があろう』
『それは明日の分です』
何度、こんな不毛な会話をした事か。
あの男は、主の仕事を何だと思っているのか。
仕事より、健康を第一と云って憚らぬ。
それでは駄目なのだと、家を守る為にもある程度の無理をせねばならぬのだと。
いくら言い聞かせても、長曾我部は聞かぬ。
家より、我が大事だと云って。
反発はした。
長曾我部の言い方も悪い。
我の態度を硬化される、へらへら言い方ばかりする。
だから、一時期聞く耳を持たぬ態度にも出ていた。
あまり長続きはしなかったが。
『旦那さま』
長曾我部が根気良く、我を呼ぶ声に負けてしまうのだ。
どんなに強情を張り、突っぱねようと思うとも。
最終的には、長曾我部の粘りに我は…。
甘やかされている。
構われている。
大事にされている。
長曾我部から我に与えられる物は、心地良い。
年月をかけた、ゆっくりとした信頼と安寧は。
我の中に、確実に染み込んでいる。
手放せないものだ。
それは口に出せないものの、認めている。
我は長曾我部が好きだ。
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仕事の一環だが、苦手な社交の場からの帰宅は。
精神が摩耗してる為、疲労が大きい。
それを長曾我部は掬い上げるように、癒やしてくる。
抱き上げられる。
背を撫でられる。
気分を和らげる。
それら全てを長曾我部は、我へと与えてくる。
子供の時から、今も。
それに、我は甘える事を少しだけ覚えた。
抗いきれるものではないのを判ってからだが。
長曾我部の腕は、我だけの為にある。
そうなのだ。
だから…抱き上げられた儘、我は長曾我部の首に腕を回した。
「どうした? 元就、ナンかパーティであったか?」
「何も無い」
「作り笑いし過ぎたんだろ、いつもの如く」
「別にしておらぬ」
「ま、仕方ねえか、あの場じゃ毛利の当主しなくちゃならないもんな」
ヨシヨシと、声と共に頭を撫でられる。
以前は、この仕草は子供扱いにしか感じられず、直ぐに手を払っていたが。
安堵する。安心から手を払う気が無くなっている。
「頑張ってるもんな、元就は」
「…当然よ」
「ああ、判ってる。だから、その分今は『元就』でいろよ」
『元就』…それは、家も毛利も外れる。
元親が呼ぶ、我自身の名。
今はまだ、子供に対する愛情を含んでいても。
いつか、必ず、それ以上のものを我は元親から貰う。
我だけのものを。
何度もしているその決心をして。
我は元親の腕の中で、身体の力を抜いて凭り掛かった。
―――いつか、もっと、先へ…と。
2012.08.20 back
とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元就視点、いつまでも子供じゃないぞ宣言の旦那さまv