世界で一番 −2−


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独活の大木
年上だからとか
背が高いからだとか
そんな物が有利に役立つ事などないと
教えてやる

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一体、何なのだ、この男は。
万死に値すると云っても過言では無い。
この我にこのような口をきくなど、馬鹿なのか。
主と執事という雇用関係だというのに。
子供にする様に、頭を撫でてくるなど。
言語道断だ。
雑賀からは使える者だと聞いてはいたのだが、本当なのか。
疑わしいにも程がある。

「百聞は一見にしかず、だ。先ずは使ってみるがいい」
「しかし」
「その上で判断し、解雇にでも何でもすればいい」
「成る程」
「おいっ、勝手に決めるなよ」
「クビになりたくないなら、励めばいいだけだ。
 そうだろう、元親」

雑賀の云う事は尤もだ。名を呼ばれた男は、言葉に詰まっている。
反論が出来ないと云う事は、認めたと云う事だろう。

「判った。それで良い、雑賀」
「ありがとうございます。良かったな、元親」
「…どこがだよ」

まだ疑惑は払拭し切れないが、取り敢えず使ってみるか。
使えなければ、切ればよいのだ。いつもの如く。

「名は?」
「え、俺?」
「貴様以外、誰の名を聞くと云うのだ」
「…長曾我部元親、だ」
「我の名は、毛利元就。心して仕えよ」
「へいへい」
「承知しました、だ。この烏」
「痛えっ!」

雑賀に後頭部を強か叩かれた男が、品の無い叫び声を上げる。
その様子を見ながら、早まったかと思いはしたが。
物は試しだと、我は思い込む事にした。


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我は毛利元就。
毛利財閥の新しい当主に収まったばかりだ。
父と母と兄が、渡米中の飛行機事故に遭った為だ。
一人残された我が継ぐしかない。
例え、年齢が七歳云えど直系は我しかいないのだ。
我がするべき事なのだ。
この家を守るのは、我の義務だ。
その為の手段をいくらでも取る。
我はそう、両親と兄に誓ったのだ。

なので我は、我の手足として働く者が必要と考えた。
この身だ。
子供だと云うだけで、不都合な事もある。
何とも不自由な事だ。
だからこそ、そこをサポートさせる人間を雇う事にしたのだった。
雑賀を介して。

そして、現れたのが長曾我部だ。
本当に使えるのかどうかは、まだ未知数だが。
雑賀の云う通り、使ってみないとだ。
使えねば、叩き出すだけだ。

「旦那さまーっ、取り敢えず、本日のスケジュールからな」
「騒がしい、もう少し静かに出来ぬのか」
「元気があっていいだろ」
「己で云うな」
「元気がないより、あった方がいいだろう?
 ほら、旦那さまも元気だせって、子供なんだからさ」

一体、何を云い出すのだ、この男は。
今、子供と云ったか? 我の事を子供と。

「誰が子供だっ」
「旦那さまだって」
「長曾我部っ」
「ほら、そんな突っ張るなって、元気があるのはいいけどよ。
 突っ張り過ぎると疲れちまうって」
「余計なお世話だ」
「余計と云われてもするぞ、旦那さまの世話は。
 その為に、俺は雇われたんだからな」

勘違いも甚だしい。誰がそんな事を頼んだ。
やはり、この男…使えぬのかもしれぬ。
えっ?

「旦那さま、俺が力になってやる。助けてやる。
 だから、いくらでも俺を頼っていいからな」

いきなり、長身の男が我の目の前にしゃがみ込んできた。
目線が我へと合わせられる。
間近で見る男の顔は笑っており、目が青で。
我はつい口を噤んでしまった。

「確かに、こんなバカでっかい家を守るんなら、背伸びも無理も必要だ。
 けど、それで旦那様が潰れちまったら元も子もないだろ」
「我はそんな弱くは無い」
「弱いなんて思ってないさ。ただ一人で頑張らなくていいって事だ。
 俺がいるんだから」

子供だと思って、馬鹿にしている訳でも、侮っている訳でも。
どうやらないようだ。
もしかして、この男は見掛けは大人のくせに、単に単純なのか?
それとも、馬鹿なのか?

「ほら、旦那さま」

手が差し出される。
目が促してくる。

「契約だ」

慎重にその掌の上に、我は手を乗せた。
いつでも、こんなものは振り払えるからな、と。





2012.06.22
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とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元就視点、ちびっ子当主が奮闘中