世界で一番 −3−


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先ずは知る事から
だから見てみる
一挙手一投足を
どんな事をするのか
どんな事を考えているのか

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就職、一日目。
執事の朝は早い。
何しろ、旦那さまより早く起きなくちゃならねえ。
旦那さまを起こさなくちゃならねえんだからな。
基本は、先に先に動いて用意を万端に、だ。

旦那さまの寝室にノックをして入り、カーテンを開ける。
部屋の中央に置かれたベッドを覗き込むと、年相応の顔して寝てる。
んー、こーゆートコはまだ子供なんだけどよ。
疲労からきてる目の隈が凄く気になるんだよなあ。
多分、注意しても一笑に付すだけだ。
ナンで、何か対策を考えないとな。
子供に無理は、あんまさせたくねえ。
そのサポートも俺の仕事の1つだ。ちゃんと看てやらねえとな。

「おはようございます、旦那さま。朝です」
「……………ぅん」

部屋の中が明るくなったんで、眠りからは覚めてはきてる。
けど、起きる気配はナシ。
俺は手を伸ばして、鼻を摘んでやった。
いーち、にぃ、さーん、しっ、と。

「…っ、何をするっ!」
「お目覚めですか、旦那さま」
「長曾我部っ」

よし、起きた起きた。意識もはっきりしてるな。
これなら大丈夫だろう。

「朝食の用意が出来ております。
 食いっぱぐれたくなかったら、どんどんお支度して下さい」
「……愚劣な」

口が悪いのは、昨日の初対面時に把握した。
ナンで、一々気になんかしねえ。
それよりも、っと。

「ちょ、長曾我部っ、何をするっ」
「お着替えの手伝いです。
 旦那さまがするのを待ってたら日が暮れちまう」
「一人で出来るっ」

キャンキャン騒ぐのを無視して、俺はパジャマを脱がし始めた。
ああ、やっぱ痩せ過ぎだ。
7歳って云ってたが、小さいモンな。
どんどん栄養のあるモン、食べさせてやらねえと。
おっきくしてやんねえと、な。

そんに事を考えながら、俺は暴れ捲る旦那さまの着替えを完了させた。


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仕えて一日目の感想。
これは子供の一日じゃねえ。
仕事仕事仕事で、埋まってる一日だった。
勿論、7歳だから学校も行ってる。
けど、行ってるだけだ。
ダチと遊ぶってコトはしねえし、休み時間は携帯で仕事の連絡ばっか。
一通りの勉強はもう既に修学済みなんだってよ。
出席日数の関係で通学してるだけなんだってよ。

はあ…。

両親死んじまって、一緒に年の離れた兄さんも死んじまって。
一人取り残されたのには、同情する。
直系だから、家を継ぐってのも判る。
けど、子供なんだよな、旦那さまは。
いっくら頭が良くて、会社経営が出来て、当主の座に就いてても。
見掛けは、子供なんだって。
身長だって、俺の腰ぐれえの、ちっこい子供なんだって。
それが、アレもコレも背負っちまってて。
どっからどう見たってしんどいだろうに。
本人は、平気だって云ってる。

けどよ、そんなの絶対にいいワケがねえ。
俺はほっとけねえよ。

ああ、成る程な。サヤカの云う通りってワケだ。
全く、アイツは肝心なコトを云ってくんねえんだからなあ。
自分の頭で考えろって、な。
まあ、その方が確かにいい。
俺の性分じゃ、人に云われてから動くってのはしねえもんな。
よく判ってら、サヤカも。

んじゃ、取り敢えず俺のするコトは旦那さまの懐柔だな。
甘やかしやる。
子供なんだから、目一杯な。
気ばっか張り詰めてる旦那さまを俺が甘やかして。
一時でいいから、子供らしくしてやる。
あんな張り詰めた糸みてえな姿。
見てなんかいられねえ。
切れたらどうすんだよ。
だから、切れる前に緩めてやる。

「旦那さま、休憩時間です」
「この仕事の切りがついたらな」

書類から目も離さず、俺の言葉は聞くけど、そんだけ。
手はサインを書いてるし、次の書類を取っている。
キリなんかつかねえだろ、それって。
だーから、俺は強行突破だ。

「長曾我部、何をするっ」
「休憩時間、おやつの時間ですよ、旦那さま」
「お、おやつ?」
「パンケーキにあんこを挟んでホイップクリームとメイプルを掛けたおやつです」
「えっ?」

見上げてくる顔は、経営者じゃなくて子供そのまんま。
俺はそれに満足して、旦那さまの手から書類を取り上げた。





2012.06.28
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とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元親視点、元来の世話焼き発動中