世界で一番 −4−


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侮られたくなどない
対等より上が良い
その位の差を付けておかないと
簡単に差を縮められそうで
癪に障るばかり

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こんな人種は初めてだ。
諂うでもなく、媚びるでもなく。
我を子供扱いする者が居るとは。
今まで遭遇した事などなかった。

子供は子供らしく、だと?
我に出来る訳など無いと、立場があるのだと。
いくら云おうとも、聞いていないのかと思う程に。
同じ事を繰り返してくる。
やはり、長曾我部は馬鹿なのだな。
その結論に落ち着いた。

ただ、仕事は出来るのだ。
流石に、それだけは認めるしかない。
雑賀が紹介してきただけはある。
段取りは良く、一歩先の準備は万端だ。
しかも、我に合わせてある。
使い勝手が悪ければ、即叩き出してやろうと目論んでいたというのに。
これでは出来ぬ。

しかも…。

「旦那さま、お味は如何ですか」
「…良い」
「お口に合って良かったです」
「………」
「旦那さまに気に入って頂けたのなら、又作りますが」
「…うむ」
「承りました。次は何かご希望はありますか」
「…イチゴのケーキ」
「はい、判りました。大きな苺をご用意致しますね」
「……ん」

何故、こうも見事に我の弱い所を突いてくる。
拒否し難い事を晒してくる。
何と、狡賢い男なのか。

「旦那さまは綺麗に平らげて下さるから作り甲斐がありますよ」

そう云って、撫でてくる大きな手を我は懇親の力を込めて払ってやった。
主従関係を示す為にも。


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父上がいる。母上も。
そして、兄上が。
三人揃って、我の方を見ている。
とても…とても、哀しそうな顔で。

大丈夫です。
我は大丈夫です。
心配などありません。
一人でも我は平気です。
大丈夫ですから、心配など…っ。

「旦那さまっ」

パッと目が開くと、目の前に長曾我部がいた。
真剣で、少し怖い目をした、長曾我部が。
そして、父上も母上も、兄上もいなかった…。
…いなくなっている。
夢、だったのだな。
我は、夢から覚めたのだな。

「旦那さま、大丈夫…じゃねえな」
「えっ…」

ベッドに横になっていた身体を脇を支えられて起こされる。
長曾我部の大きな手で。
そして、ベッドの上に座った長曾我部の膝の上に座らされた。

「長曾我部っ、何をっ」
「いいから、ほら」

横抱きにされ、長曾我部の左胸へと頭を寄せられた。
…音、がする。
規則正しい音が、長曾我部の心臓の音がする。
トクントクン、と生きている音がしている。
気持ちが落ち着いてゆく…。

「怖い夢みたのか」
「…違う」
「じゃあ、悲しい夢か」
「………」

悲しい?
悲しいのだろうか…。
父上も母上も、兄上も心配そうな顔で我を見ていた。
夢の中だが、いくら大丈夫ですと告げても。
その心配そうな顔は、変わらなかった。

…我が、まだ子供の身であるから。

「ヨシヨシ」
「…長曾我部、何をしておる」
「イヤな夢を見た時はこうすんだよ」

気付くと、我は長曾我部に背中を軽く叩かれ、頭を撫でられていた。
確かに、そのテンポの接触は強張っていた身体を解してきてはいる。
気持ちも一緒に。

「…子供扱いするなと、再三云っておる筈だが」
「子供扱いじゃねえって、これは」

ならば、何なのだと問おうとした所で。
手ではない感触が、額に当てられた。
これは…唇? 長曾我部の…?

「長曾我部っ!!!!!」
「ほおら、元気出ただろ、旦那さま」

我は大急ぎで長曾我部の膝から飛び降り、ベッドの上の枕を掴んで。
その顔面に投げ付けてやった。





2012.06.29
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とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元就視点、アニキの前では子供に戻っちゃう?