世界で一番 −5−
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理不尽な事なんて世の中いくらでもある
どうしようもない事も
遣り切れない事も
沢山沢山ある
だけど覆す事は出来るから
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やっぱ、まだ子供なんだよなあ。
外見通りの。
いっくら突っ張ったって、背伸びしたって。
子供は子供。
大人が守ってやんなきゃの、だ。
あんな姿を見ちゃなあ…腹も決まるってモンだ。
俺が面倒見てやんなきゃな、旦那さまの。
そう強く心に決めた俺は。
今朝、旦那さまに枕を顔にぶっつけられた後に。
蹴っ飛ばされた向こう脛に湿布を貼ってから。
執事の仕事に戻った。
…結構な悪ガキだよな、旦那さまは。
「長曾我部、遅いぞ」
「申し訳ありません、旦那さまのおかげで遅くなりました」
「我の所為にするな、この卑怯者」
「いえ、本当の事を申し上げただけです」
「大袈裟に云うな」
「正確に蹴っ飛ばしておいて、何を云いますか」
執務机の大きさは、もうどうしようもないんで。
椅子の方を旦那さまの今のサイズに合わせてあるんだが…。
違和感アリ捲りだな。
ちっこい身体が書類の山に埋もれてる。
ホント、この状況は旦那さまには良くねえんだけど。
仕方ねえ…ってのがなあ。
どうにかしてやりてえんだが、まだ良い案が見つからねえ。
「長曾我部、この書類は目を通した、次のを持って来い」
「もうですか? 早いですね」
「これぐらい普通ぞ」
小さい手が、大きいペンを走らせてく。
殆ど、書類から顔を上げず、片付けてく。
やっぱなあ…こんなのなあ…子供のあるべき姿じゃねえよなあ。
「長曾我部、さっさとせぬか」
「ハイハイ」
「はい、は一回ぞ」
「はい、旦那さま」
ぷっ。
旦那さまの肩が震えてんのが、見えた。
自分で云って、自分に受けて、笑ってんのを堪えてんのかよ。
こんなトコは、可愛いよなあ。年相応にみえてさ。
だから、余計にナンとかしてやんなきゃな。
仕事の範囲外だって、ムキになって云ってきそうだけどよ。
まあ、これも執事の仕事ってコトにしとこう。
旦那さまに、子供に。
大人として、無理をさせたくねえからな。
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7時に夕飯。
ん、よし。まあまあ、だな。
この時間ならOKだ。
食事ってのは大切だからな。
あんま遅いってのは、旦那さまの身体によくねえ。
子供なんだから、尚更に。
食欲は…普通、だな。
ちと、機械的に食ってんのが気になるが。
仕事の書類は取り上げたんで、ヨシと。
全く、何が時間が惜しいだ。
消化が悪くなるだろうが。
仕事仕事って、このガキは。
仕事より、先ずは自分のコトをもっと大事にしろって。
『我はいつもこのようにしているのだ。
書類を返せ、長曾我部』
『ダメです、食事中は食事を楽しんで下さい』
『食事などただの栄養摂取にしか過ぎぬ』
『確かに必要な栄養を摂る為ですが、それだけではありませんよ』
『それ以外、何があると云うのだ』
『美味しいものを食べると嬉しくなります』
『そんな事は必要無い』
こーのー、駄々っ子が。
ああ云えば、こう云うを体現してんじゃねえの。
『旦那さまが食事を楽しんで頂けるのなら、そうですねえ…。
カロリー無視で、お好きなものを一品必ずお出ししますよ』
『まことか』
『ハイ、お約束しますよ
但し、食事中はお仕事をしない、それを旦那さまもお約束して下さいね』
『…判った、約束してやる』
『ありがとうございます』
やれやれ、手の掛かる旦那さまだ。
けど、俺が甘やかしてやんねえと。
他に出来るヤツがいねえんだし。
無意識でいいから、甘えられるようにしてやんねえと、な。
さあ、次はどんな手を使ってやろっかね。
結構、食い意地が張ってんのは判ったから、そこら辺を押さえておくのは有効打だ。
子供らしいトコが、完全消去してなくて良かったわ。
顔真っ赤にして、次はミートボールが食べたいって云われた時。
マジ、そう思ったって。
ワガママを云える場所。
それが、今の旦那さまには必要不可欠だ。
与えてやんねえと。
この俺が。
さー、ミートボールの下拵えしとくか。
俺は腕捲りをして、厨房へと入って行った。
2012.07.06 back
とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元親視点、どこまでが主従領域かな?