世界で一番 −7−


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構うから可愛いのか
可愛いから構うのか
どちらにしろ
仕事の範囲は超え始めている
それは自覚している

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「旦那さま、お客様がいらっしゃってますが」
「来客の予定はあったか?」
「いいえ、アポイントメントは取っておられません」
「誰だ、その非礼者は」
「松永様と仰る方です」

天気の良い日曜日。
普通の子供だったら遊びに飛び出してるだろうになあ。
ウチの旦那さまは、朝から、自分から部屋に籠もって決済の書類に目を通していた。
そんな時の来客。
しかも、名前を云った途端に、旦那さまの肩が跳ね上がった。
これって…。

「お断りしますか」
「………いや、良い。通せ」
「では、お通しします」
「………」

大丈夫なのか?
どんどん、顔が強張るは、蒼白になってくわ、だぞ、旦那さま。
会いたくないんなら、云ってくれりゃ追い返すってのに。
ん〜、義理とか人情…は、ねえな。旦那さまに限って。
んじゃ、一体ナンなんだ?
明らかに嫌がってる、毛嫌いしてるってのが態度に出てるのにってよ。

俺は頭を捻りながら、それでも、言い付けを実行する為に執務室を一旦出た。


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「久方ぶりだね」
「お久しぶりです」

もお、自分はこう座るのが正しいってカンジのフン剃り具合で椅子に座ってる、壮年の紳士と。
蛇に睨まれつつも、歯がねえのに何かあれば噛み付くぞってカエルみてえなカンジのウチの旦那さまが。
来客用の応接間で対峙してる。
で、俺はその間のテーブルにお茶の用意をしてるトコロだ。

「息災そうだね、元就」
「叔父上も」

あ、親戚さんか。
けど、その割には態度が硬化し続けってるな。
苦手なのか、性が合わないのか。両方か、別の理由か。
なんだろうな?

「新しい執事だな」
「はい、長曾我部と申します。お見知りおきを」
「そうだな、長く務められるなら、元就の事を宜しく頼むとしよう」
「叔父上、余計な事です」
「はは、失敬」

品定めをされてるなあ、と思ってたから。
その不遜な物言いに、俺は平気だったんだが。
旦那さまの方が過剰に反応してる。
ホント、どうしたんだ?
ここまで毛嫌いしてるのって、かなりの理由があるだろう。

「長曾我部、下がれ」
「え、でも」
「我は下がれと云った」
「判りました。何か御用が御座いましたら、即お呼び下さい」
「忠実だな、今度の執事も。これなら安心出来る」
「叔父上」

緊張し捲った空気の中、ピシャリと旦那さま声が締める。
俺は一礼して、部屋を出た。
出たけど、何かあった時用に、直ぐに飛び込めるように。
部屋の外で待機態勢を取っていた。
いつでも、どんなコトがあっても、旦那さまを守ってやれるように。

イジメられたら、俺を呼べよ、旦那さま!


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「暫く一人になる、誰も入れるな」

客が帰った途端、旦那さまは自室に籠もってしまった。
口出しも反論も許さないって、態度で。
んー。
けど、出す。俺は出すぞ。
あんな憔悴しき切った顔を見たら、ほっとけないだろ。
おやつも要らないなんて、相当キテるだろ。
これは。

「旦那さま、失礼します」

ん? てっきり鍵が掛かってると思ってスペアを用意してきといたんだが。
カチャリと開いた。
物が飛んで来るのを警戒しつつ、中に入ると、何の音もしなかった。

「旦那さま?」

いつもの罵倒も飛んでこねえ。ホント、どうしたんだ?
俺は忍び足で、旦那さまをアチコチ探してみた。
お、いたいた。
寝てるわ、ベッドん中で、着替えもしないで、さっきの服装のまんまで。
すぅすぅ、寝息立ててるわ。
疲労感たっぷりってカンジで。
全く、疲れたんなら疲れたって云えばいいのによ。
そしたら、ちゃんと労ってやるのによ。
俺が甘やかすの、知ってるクセになあ。

ベッドの端にソッと座る。
小さい頭。サラサラの髪をソッと撫でる。

「俺が付いてるからな、旦那さま」

そう声を掛けると、手が何かを探すように伸びてきた。
その仕草があんまりにも可愛くて、俺は即座にその手を握ってやった。
せめて、夢ん中でぐらい安心して眠れるようにと、思いながら。





2012.08.03
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とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元親視点、不穏な嵐到来?