世界で一番 −8−
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
一々煩い
ならばいつもの様に無視をすればいい
その筈が出来ないのは
もしかしたら
構われたいのだろうか
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
最悪だった。
親族の中で一番苦手な相手が不意に来た事も。
当主として相手をしなければならない事も。
神経を逆立てる会話をしなければならない事も。
何もかもが、最悪であった。
たわいのない、話だった。
わざわざ、出掛けて来て話す内容ではないだろう。
しかし、我がそう思おうとも饒舌に話す叔父を止めらぬ。
話し切らねば終わらぬのだ。
家の事、仕事の事、我の事。
正論を宛ててくる。
疲れた…。態度を取り繕うのにも、返事を返す事にも。
相性というものが良くないのであろうな。
『取り敢えず、元気そうで安心したよ』
『叔父上も、ご健勝で何よりです』
『新しい執事のおかげかね?』
『仰っている意味が判りませんが』
『それは…まあ、そのうち判るかもしれんし、判らないかもだろう』
謎掛けの様に云われ、全く判らず終いであった。
一体、何が目的で来たのか。
気紛れにも程があるが、それがあの叔父だからな。
今回も振り回された。
なので、心身共に疲れた我は、長曾我部の心配を振り切り自室に戻った訳だ。
残っている仕事を続ける気が、どうしても起きなかった為に。
--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--
夢だ。
これは夢だと、判る。
父上がいる、など。母上がいらっしゃる、など。
もう、我にはいないのだから。
微笑まれても、言葉を掛けられても。
全てが夢、なのだ。
それが良く判る。
無いものを我はねだったりなどせぬ。
そんな無駄な事はせぬ。
手も伸ばさない。欲しがらない。
夢の中だけだ。
こうして頭を撫でて下さるのに、甘えられるのは。
父上…母上………。
「お目覚めですか、旦那さま」
「………」
「転た寝などしたら風邪を召されますよ」
「………」
「服の儘などお行儀悪いですしね」
「…長曾我部」
「はい、何でしょうか」
「何故、いる?」
「心配でしたから」
髪を撫でていたのは、長曾我部だった。
目を開くと、長曾我部がいて、我の頭を撫でていた。
一瞬、己の置かれている状況が把握出来ず、焦ったが。
ガバッと起き上がり、長曾我部の手を払った。
「心配など要らぬ」
「いいえ、要りますよ」
「子供扱いか? この見掛けの所為か?」
「いいえ、旦那さまだからです」
再び、伸びてきた手を避けて、我は長曾我部を睨んだ。
子供でも、この見掛けでも、我はせねばならぬ事があるのだ。
一人でも、この毛利の家を守らねばならぬのだ。
出来ている筈だ。出来なければならぬのだ。
我には、その責任があるのだ。
「我は要らぬと云ったのだ、長曾我部」
「全く…旦那さまは仕方ないですねえ」
「な、何をするっ」
「強硬手段です」
長曾我部の両腕が伸びてくる。
払うより早く、我の両脇へと差し込まれ抱き上げられる。
身体が持ち上げられ、我は長曾我部に抱っこされていた。
「お、下ろせっ、下ろさないかっ、長曾我部っ」
「ダメです、下ろしません」
「め、命令だっ、直ぐに我を下ろせっ」
「本当に下ろして良いんですか、旦那さま?」
抱き上げられている為、今、我は長曾我部を見下ろしている態勢になっていた。
見上げてくる長曾我部の顔。青い色の目が、我を見ていた。
長曾我部は、作り笑いなどしない。
それは知っている。知ったのだ。傍に仕えさせているうちに、知った。
「大丈夫ですよ、決して落としたりしませんから」
「…そんな事などしたら、即クビだ」
「それは困りますから、余計に落としません」
「…馬鹿者」
「そんな言葉を口にしては、いけません」
「えっ? あっ!」
いきなり腕の力を緩められて、我の身体が落下する。
その恐怖に、我は慌てて、長曾我部の首へと両腕を回した。
「お仕置きです、次からは気を付けて下さいね、旦那さま」
「長曾我部っ!」
しがみついた態勢では、分が悪いが。
怒鳴らずにはいられぬ。
我は報復も兼ねて、長曾我部の耳元で大きく怒鳴ってやった。
2012.08.07 back
とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元就視点、気が緩んでます、気を許してます