世界で一番 −9−
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子供の成長は早い
いつまでも子供のような気がしていても
気付いたら大きくなっている
それを寂しいと思うか喜んでやるか
どちらも出来てしまうから厄介だ
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「おはようございます、旦那さま」
「おはよう、長曾我部」
最近は、ドアを開けるとすっかり支度を済ませた旦那さまがいる。
全く、手伝わせてくれねえ。
中学に上がってからは。
まあ、思春期突入ってのもあるだろうから、つまんねえのと思いつつも。
俺は我慢してる。
この年頃は、突き過ぎると捻くれ度がハンパねえ。
しかも、旦那さまだしな。
目に見えるわ。ナンでしねえコトにしてる。
「本日の予定ですが」
「申せ」
可愛げが少しなくなったよなあ。
これはマジ寂しい。
大人になろうって背伸びしてた感が、少し落ち着いちまった。
ムキになってキーキー騒ぐ、旦那さま、可愛かったのになあ。
もお、アレが拝めねえってのは、やっぱ寂しいわ。
「…如何した」
「いえ、何でもありません」
「ならば良い」
当主であろうとしてる努力の結果か。
風格ってモンが出始めてる。その分、子供らしさが減ってんだけどな。
そんな早く大きくなんなくてもいいのにな。
子供ん時って、結構大事だろ。そん時、判んなくてもよ。
あーあ、勿体ねえ。
けど、旦那さまへのサポートを手抜きする気はねえ。
旦那さまが頑張ってるんだ、俺も頑張らねえとな。
背が伸びたとはいえ、身体の線の細さは変わらねえ。
肩もすんなりと細いもんな。
だからさ、あの肩に色々乗ってんのを、いくらかでも軽減させてやりてえんだ。
大事にしてやりてえ。
ちっこい頃から見守ってるんだもんな。
今更、他の奴に任せられるかよ。
旦那さまは、俺のモンだからな。
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「長曾我部」
「はい、旦那さま」
「休む」
「はい、判りました」
財界の集まりから帰宅した旦那さまの開口一番の言葉に。
俺は眉を顰めた。
まだ未成年なんで、解放されるのは早いが精神的疲労が一番大きい仕事だ。
いつも、顔色を悪くして帰って来る。
相当、キツいんだろう。
元々、旦那さまは人慣れ悪ぃし、外向的な性格じゃねえもんな。
「大丈夫ですか」
「大事ない」
どこがだよ。そんな疲れ切った声で、大丈夫って云われてもなあ。
信用出来るワケねえだろ。
こういったトコは、まだまだ子供。
ま、俺の前だから気が緩んでるってのもあるんだろうけどな。
「旦那さま、失礼致します」
「えっ…な、何を、長曾我部っ」
他の使用人達は、下がらせてある。
ナンの遠慮もいるモンか。
俺は旦那さまの身体をヒョイと持ち上げた。
「お疲れでしょう、遠慮なさらずに」
「つ、疲れはおるが、これはっ」
「力、抜いちまえって、元就」
「………元親」
他には誰もいない。だから、俺は名前を呼んでやった。
見る見るうちに、元就の肩の力が抜けてく。
俺は抱き上げた儘、背中を撫でてやり、身体を凭れるように促してやる。
そうすっと、元就はゆっくりと、全身の力を抜き始めた。
「疲れた…」
「だよな。又、気の張りっぱなしだったんだろ」
「仕方なかろう」
「判ってるって、だから、気抜けって」
「………ん」
俺の肩に顔を埋めてくる。
やっと、こんな甘えた仕草も覚えてきた、元就が。
俺は執事の仕事の枠を外して、可愛くて仕方ねえ。
時折、俺にだけ見せる無防備さが、庇護欲を掻き立てる。
勿論、そんな保護者的なモンだけじゃねえけどさ。
まだまだ、もう少し先だ。
まだまだ、元就には色々負担が大きすぎる。多すぎる。
だから、急がねえよ。
焦らせもしねえ。
初めて会った時から、ちっこい時から、見守ってやってんだ。
無理強いはしねえ。
「………元親」
「ん? どした?」
「甘味」
「ほいほい、とびっきり甘いのを用意してあるって」
「………ん」
「その代わり、食べたらちゃんと歯を磨くんだぞ」
「………煩い」
顔は上げず、元就は手を俺の髪まで手を伸ばして引っ張ってきた。
こんなツンデレな甘え方、天然でするんだもんな。
ホント、可愛いわ。
俺はお返しに、元就の髪を撫でてやり、旋毛にそっとキスをした。
2012.08.19 back
とある方の執事話に触発されて考えた話です
新米執事アニキと7歳財閥当主ナリ様
BGMはボカロの【World is Mine】でどうぞv
元親視点、旦那様の成長を見守る…だけじゃない?