High High High -1


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ポッカリと
開いてしまった穴に
自ら入りにいってしまう
そんな事をしても何にもならない
鬱な気分は晴れる筈もない

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式を済ませてから、一ヶ月が経過していた。
早いものだ。
色々有り過ぎて、あっという間であった。
我が長曾我部の元へ嫁いでから。

「ただいま」
「おーっ、お帰り、お疲れさん。大丈夫か?
 連絡くれりゃ良かったのによ、そしたら迎えに行ったってのに」
「そなたも疲れておろう、我は大丈夫ぞ」
「そっかあ…ナンか元就さん、顔色が悪いぞ?」

元親の掌が我の頬にあてられる。
大きな手だ。触れられるようになってから、いつもそう思う。

「仕事が溜まっていた故、それを片付けていたからであろう。
 少し疲れているだけぞ」
「ん、あんま無理しないでくれよ」
「仕方なかろう」
「そりゃあ、判ってるけどよ」

元親が髪を掻き始める。困った時にする癖だ。
これも一緒に暮らすようになって、気が付いた。
不思議なものだ。今まで他人の癖など我は気にした事などない。
しかし、元親に対しては気付く事が多い。色々な事を。
これが向かい合うという事なのだろう。

「そうだ、元就さん、腹は?」
「空いておるが」
「良かった。丁度、夕飯出来たトコなんだ」
「済まない、又、作らせてしまったか」
「ナンで? 謝るコトなんかねえって」
「しかし」
「俺の方が早かったから、作ったんだ。それでイイじゃねえか」

理屈は理解出来るが、それでは妻の役目を我は果たしていないのではないか。
そんな気がする。

「俺も元就さんも仕事をしてる。だったら、そん時にやれる方がやればイイって。
 そう云ったじゃねえか。元就さんも、それでイイって云ったろ?」
「確かに云ったが」
「別に大袈裟に作ったモンじゃねえけどさ。
 この間、元就さんが美味いって云ってたから、チキンピラフ作ったんだ
 温かいウチに食べようぜ。なっ?」
「うむ」
「ほら、早く着替えて来いって」

手が差し出される。そういえば、まだ玄関先であった。
夫に出迎えられる妻…。
良いのだろうか…。

「ほらほら、元就さんってば」
「急かすな」

肩に掛けていたバックが、元親の手へと渡る。
空いている方の手で、手を握られる。
その儘、元親に促され我は玄関を上がり、部屋へと入った。


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今まで生きてきた人生の中で、この一ヶ月が最大の怒濤の日々と云えるだろう。
元親と見合いをし、紆余曲折から結婚を決めた。
それから、その準備の為、冗談抜きで大忙しだった。
何故、細かい諸事が多いのか。結婚と云うものは。
決めなくてはならない事も多すぎる。
式だけでなく、披露宴、そこから波及する数多の事を。
元親と全て決めていかなくてならない。
それは良いのだ。2人で相談していくというのは。
ただ、時間が無かった。
我も元親も仕事をしている。
その中から時間を捻出すると云うのは、多大な努力がいった。
一つ決めると、次と。懸案事項が列をなしているといった感じであった。
今、振り返ると時間に追われていたのだ。
よくこなせたものだ。あの少ない時間の中で。

そんな中で、我は元親の為人を知る事が出来た。

友人・知人の数が半端ではない。
仕事関係だけでない、学生時代からの友人というものが多く。
付き合いの広さを知らされた。
しかも、その付き合い方が我とは全く違う。
一言で言えば、気さくなのだろう。
あとは、類友といった類であろうか。
我が今まで関わりを持たなかった人種と云える。
それを目の当たりにして、実は面食らってしまってもいた。

生きてきた過程が、本当に違うのだな、と。

その時は驚きと知る事で精一杯だったのだが。
こうして、少しずつ生活自体が落ち着いてきて。
ふと、思うのだ。

水と油。

端的に云うと、我と元親の性格はそうだと思うのだ。
価値観とかも違う。
まだ、はっきりと見えてはいないが相容れないものもあるのではないか、と。
それが何かは判らないが、衝突しないとは云い切れぬ。

己自身で判っているが、我は頑固だ。
納得出来ぬものに譲歩などせぬ。
信念を曲げるなど、決してせぬ。
だから、元親と―――いつか。


そおっと、元親の寝顔を盗み見る。
抱き締められている体勢から。
こんな間近で見るのには、まだ慣れぬ。
心臓も落ち着かぬ。
けれど、我はここから出る気は無い。
それだけは、本当だ。

元親の寝息を聞きながら、我は目を閉じ。
元親の腕の中に、もっとと潜り込んだ。





2012.06.24
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とある方より、その後の話と云って頂きポンと思い付いた話です
お見合い話のその後、つまり新婚さんな瀬戸内になります
元就視点、先ずは2人の新居よりですよ〜