High High High -3
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自分と相手
見つめてみる
距離を図ってみる
手を伸ばしてみる
そうしたら何か変わるだろうか
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「おはよー、元就さん」
「…おはよう」
「メシ出来てるぞ〜、早く顔洗ってきてな」
「…うむ」
又だ。又、今日も元親に朝食を作らせてしまった。
ほぼ、毎日だ。
日課の昇陽を拝んだ後、疲労が抜けていない為に、二度寝をしてしまうのが原因だ。
なかなか起きられぬ。
次こそはと、決心しておるのだが、元親が目覚ましを止めてしまう。
その時にやれる方がやれば良いとの、いつもの理論で。
我を起こさずに、一人でキッチンへ向かい、朝食を作ってしまう。
感謝はしている。
有り難いと思っている。
それに、嘘は無い。ただ…。
「元就さん、どした? 早く食べねえと、遅刻するぞ?」
「元親」
「ん?」
「明日は我が作る。良いな」
「あー、いいけどよ…」
「何か不満でもあるのか」
「違う違う、不満なんてあるワケねえって」
「ならば、どうして言い淀む」
「明日はまだ金曜で平日だろ?」
「それがどうかしたのか?」
「元就さん、土曜は休みだろ? 俺も休みで」
「うむ」
「休みの日の方がゆっくり作れるだろ?
だから、土曜日の楽しみにしてえなって思ったんだ」
「成る程」
「土曜の朝飯、俺の為に作ってくれるか? 元就さんが」
多少、言葉で丸め込まれている気がしないでもないが…。
目の前で、満面の笑みと期待をしている顔を向けられると。
つい、頷いてしまう。
「やった! 約束な」
「…楽しみにしておれ」
「ウン!」
何故、ここまで喜ばれるのか、と。
考えてしまうが、元親に喜ばれるというのは、嬉しいと感じる。
我が、素直にだ。
そして、その理由も判っている。元親だからだ。
約束なと云われ、キスをいきなりされ、慌ててその頭を叩こうとも。
元親ならば、我は良いのだ。
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「おーい、元就さんってばよー」
寝室のドアの向こうから、元親が気を遣いながらずっとノックを続けておるが。
我はベッドの被った毛布の中から、顔を出す事も動く事も出来なかった。
出来る筈が無い。
今日は土曜日だ。約束した日だ。
その約束を守ろうと実行した日、だ。
そして、それが失敗となった日…だ。
「そんなに気にしないでくれよー」
馬鹿者。気にしないわけには、いかぬ。
我は元親が用意しておいてくれた食材をほぼ全滅させたのだぞ。
合わせる顔など、どこにも無いではないか。
何故、我が作るなど大口を叩いてしまったのか。
何故、仕事よりも料理を作る事の方が難しいのか。
…知らなかったでは、済まぬ。
「元就さん、入るぞー」
カチャリとドアの開く音に、全身が強張った。
元親が怒ってなどいないのは、判っている。
気分を害してないのも、判る。
しかし。
しかし…。
こんな時、どうしたら良いのか判らぬ。
一体、どんな顔をすれば良いのだ。
何と云えば、良いのだ。こんな時は。
今まで、こんな切羽詰まった事など無いから、知らぬのだ。
「元就さんってばよー」
元親がベッドの端に座り、スプリングが弾む。
その儘、動けないでいると毛布ごと、元親の腕が我を抱き締めてきた。
重さを掛けずに、覆い被さってきた。
強引だとも云えるのに、優しく扱われる。
もう…何を答えれば良いのかも、判らなくなった。
「ありがとな」
え? 何を云い出すのだ?
我は元親に感謝される事など何もしておらぬ。
あまりの不可解な言葉に、我は毛布の中から元親を見た。
「えっとな、確かに朝飯はアウトになっちまったけどよ。
それって、元就さんが俺の為にしてくれたコトの結果だってだけでさ。
俺は結果よりも、元就さんがしてくれたってコトの方が嬉しくて仕方ねえんだ
判るか?」
それは…判る。我も同じ気持ちを多々味わっている。
元親が我へと向けてくれる感情、言葉、行動の全てから感じている。
嬉しい、と。
幸せなのだ、と。
我を見返している、青の眸が笑う。
我も釣られて、笑った。
「じゃあさ、どっかに朝飯食いに行こうぜ、腹減った」
「…そうだな」
「デートも兼ねてさ、デザート付きで」
「うむ」
返事をすると、我は毛布ごと抱き起こされた。
夫である、元親に。
2012.07.03 back
とある方より、その後の話と云って頂きポンと思い付いた話です
お見合い話のその後、つまり新婚さんな瀬戸内になります
元就視点、新婚生活奮闘中、頑張ってv