High High High -5


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初めての事ばかりに途惑う
慣れていないのだから仕方ない
未経験なのだから仕方ない
でも足を止める事も手を引っ込める事も
決してしたくはない

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「………どうだろうか?」

我は恐る恐る聞いたというのに、元親は躊躇なく我の作った料理を口に運び咀嚼する。
つい、真剣にその姿を見てしまう。
どうだったのだろうかと、不安に駆られながら。
元親に教わりながら作った、今晩の夕食の味はどうだったのだろうか。
味見はした。
不味くはないと…思う。
食べられる物が出来たと思うのだが。

………元親の口に合っただろうか。
それだけが心配で、元親を見てしまっていた。

「美味い、美味いよ、元就さん」
「本当か?」
「本当だって、ウソじゃねえって」
「…ならば、良いが」

どうにも今朝の失敗がトラウマになっている所為か、今一信用がならぬ。
いや、元親にではなく、自分になのだが。

「元就さん、俺のコト信用出来ねえ?」
「そうではない…ただ…」
「ただ?」

テーブルの向かい合わせで、元親が機嫌良く笑ってくる。
どう返答すれば良いのだろう。
己でも上手く説明出来ぬものをどう口にすれば良いのか。
…判らぬ、のだ。

「大丈夫だって、ホント美味く出来てるしさ、それにさ」
「それに?」
「俺が教えたんだから、美味しいに決まってんの」
「…そうな、のか」
「ウン、そうそう。しかも、愛情たっぷりだしな」

くすっと笑いが漏れる。
元親の言い様に、心がホッとし、思わず笑ってしまった。

「大丈夫。元就さん、これからドンドン美味くなるって」
「そうか?」
「そうだって、何しろ俺が付いてんだからさ」
「そうか…」

自然と口から出てきた己の言葉に納得する。
目の前では、やはり元親が笑顔を向けてくる。
何となくだが、肩の力が一つ抜けたような気がした。

そうなのだな。
我と元親の生活は始まったばかりなのだ。
上手くいかない事もあって、当然なのだ。
…今までした事の無かった料理が、その良い例だ。
…今まで料理をしようと思った事も無い、のだから。

「美味いぜ、元就さん、ホントに」
「元親のおかげぞ」

礼を込めて、笑い返すと。
元親が大きな音を立てて、椅子から立ち上がった。
なんぞ??
何かあったか?


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あの後、理由を聞いてみたのたが。
何でも無いの、一辺倒で確実な理由は引き出せなかった。
妙にジタバタしていたし、一体何があったのか。
無理に聞き出す気にもなれず、しかし、モヤモヤともしてしまい。
我は一人になれる場所、風呂へと入った。

今日の休日、一日を振り返ってみる。
今のでの我には無い事ばかりをしていた気がする。

結婚とは、こういうものなのか。
実家に居た時は、行動の単位が一人であった。
勿論、家族という括りの中であったが。
こうして、元親と結婚し、日々を共に過ごす。
それは、兄様とは違う。それが判ってきた。
結婚とは、不思議なものだ。

「…元就さん」
「何ぞ」

浴室のドアがノックされ、元親が声を掛けてきた。
心なしか大きな身体を、恐縮させているような感じが磨り硝子の向こう側に見える。

「ゴメン、怒ってるか?」
「…怒る事など無い」
「でもさ、気を悪くさせちゃっただろ?」
「…多少、はな」
「だから、ゴメン」

これは、些細な事なのかもしれぬ。
だが、大切な事ではあるのだろう。
我と元親の間の事なのだから、一つ一つが積み重ねてゆくものだろう。
全てを明かせとは云わぬ。
黙っていたい事もあるだろう。
それを無理強いしたいと思わぬ。
そう、思う。

「元親」
「ん、ナニ?」
「もう直ぐ風呂から上がる」
「ウン」
「出口を塞ぐな」
「あ、ゴメン!」
「それと」
「ん?」
「風呂上がりに冷たい物を所望する」
「OK!」

バタバタと大きな音を立てて、脱衣所から出て行く元親の音を。
耳にしながら、我は湯船から上がった。
何が用意されているのか、それを楽しみにして。





2012.07.26
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とある方より、その後の話と云って頂きポンと思い付いた話です
お見合い話のその後、つまり新婚さんな瀬戸内になります
元就視点、デートからお家に帰って来ましたv