「私に唄を」 一


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もう一度
会えるものならば会いたい
そう思っている
ずっと思っていた
その願いが叶うように

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平和な現代ってのに生まれて、19年。
順調に大学に入って、2年目。
もう直ぐ、20歳になるな、俺も。

戦国の、あの時代の記憶を持ったまんま、で。
別にな、支障はねえからイイんだ。
過去は過去で割り切れてっし、記憶に押し潰されるってコトもねえ。
一々、気にしてられっかってカンジだ。
それによ、俺だけじゃねえ。
高校ん時に再会した、政宗も慶次も猿飛にもある。
オマケに、サヤカもだ。
おかげで、俺の頭がおかしいんじゃねえかって心配もなくなった。
前世が、戦国武将だったなんて、人に云えねえだろ。

それに今も揃って、学部は違うが同じ大学に通ってるしよ。
何となく、こお…記憶に凹んだ時は話せる相手が居るからな。
ヘンに、落ち込むコトもねえ。
青春はまあまあ謳歌してる。
バカやったり、一応の勉強もしたり、将来のコト考えたり。
色々、やってる。
この時代の、長曾我部元親として。
ナンの不満もねえ。満足してる。

けどな…。だからな…。
余計に、ひとつ引っ掛かってるコトがある。
アイツのコトが。毛利元就のコトが。
どうしてんだろうか。この世に生まれてんだろうか。
政宗達も知らねえらしい。
情報が入ったら、教えるからと猿飛は云ってくれっけど。
全然、消息不明らしい。

もしかしたら、会えるんじゃねえかって期待してた。
他の奴等も生まれ変わってきてるんだ。
毛利だって、生まれてきてる可能性あるだろ。
そう、思ってたんだけどな…。
まるっきり、情報がねえ。
…生まれてきてねえのか。
そんな諦めが、最近は出てきた。

会って、どうする、どうしたいか、なんて考えてねえ。
思いもつかねえな。
ただ、会いてえ。毛利に。
ただ、そんだけなんだ。

けどよ、会えたら、俺はどうすんだろうなあ。
判らねえけど、俺はアンタに会いたいよ。
毛利…。


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「いい? くれぐれもお願いしたからね」
「判ってる、判ってるって」
「Hey、任せとけって」
「そんな心配しなくても大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないから、心配なの!」

今日は大学の入学式。
猿飛の従姉妹、真田幸村が入学してくる。
一つ下の真田は女の子に生まれてて、記憶がねえ。
だから、猿飛の心配症の過保護ぶりはハンパねえ。
思い出さずに済むなら、思い出さず、この儘で。
平穏な人生を送って貰いたいと、以前、猿飛は云っていた。
確かに、そうかもな、とその時は俺はそう思った。
邪魔にはならないが、余計なモンではある。
なけりゃなくて、構わないモンだ。戦国の記憶なんてのは。
この時代には、必要ねえモンな。

「本当に余計な事は一切云わない様に気を付けてよ」
「了解したって」
「安心してろって」
「うん、気を付けるからさ、そんなカリカリしなくても」
「あーもー、アンタ達だから心配なんだって!」

自分のコトじゃ全然動じない、飄々としてる猿飛がココまでってのは。
真田のコトが、そんだけ大事なんだろうなあ。
俺としては、羨ましい限りだ。
気苦労は多いだろうけど、心配出来るってのは相手が居るから出来るってコトで。
大事に出来る。
傍に居られる。
話すコトも触れるコトも、出来る。
何より、幸せに笑わせてやれるコトも出来る。
自分の力で。

イイよなあ、それってさ。
出来る猿飛が。
出来ねえ、俺からしたら。
ナンで、チョイ八つ当たりを含めて、猿飛の頭を軽く叩いてやった。

「いったいなあー、何すんのさ、鬼の旦那は」
「待ち合わせてんだろ、遅れるぞ」
「そーそー、待ってんだろ」
「ほらほら、早く行こうよ」
「云われなくても行きますよーだ」

態と苦々しく云いつつも、楽しそうに猿飛は歩き出す。
その背中の後をぞろぞろと付いて行く。
真田とは何回か会ったコトがあるから、顔見知りだ。
容姿はそんなに昔と変わってねえ。
女の子なんで、小さくはなったが面影はしっかりとある。
性格はそのまんまだしな。
後輩として、これから仲良くやってけるだろう。

「佐助、遅いでござる」

そういや、口調も昔のまんま。
女の子としてはどうかと思うが、真田自身が疑問にも思ってねえし。
天然だから、周りの方が受けいれちまってるからよ、問題ナシだ。

「ゴメンゴメン、でもそんな遅くないでしょうが」

猿飛が小走りに走り寄ってく。
その後をゆっくりと近付いていくと、真田の横に居る子に。
俺を目を瞠った。
ウソだろって、声に出しながら。

そこには、ずっと会いたいって願ってた、毛利が。
真田と負けず劣らずの、小柄な女の子姿で立っていた。





2012.09.21
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戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
転生物です
元親視点、現代に生まれたアニキの現況ですv