「私に唄を」 十一


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強固に張り巡らされた壁は
高くて高くて
見上げると
絶望よりも何よりも
手を掛けずにはいられない

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少しずつ知ってけばイイって思ったさ。
元就が、猿飛と真田に俺のバイト先に連れて来られた時に、そう思った。
もおさ、前世ってモンに拘らなくてもさ、イイんじゃねえかって。
確かに、記憶はある。鮮明なトコもあやふやなトコも。
俺があるから、元就もあるんじゃないかとか。
そんな詮索、もお止めた。
そんなの必要ねえ。生まれ変わった今の生には。

元就と会えた。
何の支障もねえ。
お互いが背負っていたモンは、以前のモンで、今には関係ねえ。
記憶があるから、元就を好きになったのか。
無かったら、好きになってなかったのか。
そんな些細なコトは、もおイイな。

俺は元就が好きなんだ。
そんだけなんだ。

コテコテのお嬢さんだから、なかなか攻略は難しいけどよ。
俺には元就だけだ。
幸せにしてやりてえ。
俺と一緒に幸せになって欲しい。
本気で、心底そう思える。

これがあれば、どんなコトでもナンとかなるんじゃねえか、って。
結論に俺は至ったんだ。
凄え充足感で。

だけど、それが覆った。
そんなコトがあるなんて、俺は思いもしなかったってのに。


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月曜の午後。
いつも通り、元就を迎えに行った。
そして、そこで聞かされた。

「長曾我部さん、お話があります」
「ん? ナンだ?」
「このお付き合いの件ですが、やはりお断りさせて下さい」
「えっ!?」
「色々と考えた結論です。どうぞご了承下さい」
「ち、チョッと待ってくれ。一体、どうして急に」
「急にではありません。ずっと考えていました」
「…俺のコト、キライか?」
「いいえ、嫌いではありません」
「じゃあ、だったら」
「でも、好きでもありません」
「だから、試しにって」
「はい、だから、長曾我部さんの示される好意に応えられる意味の好きには至らなかったのです」

真っ直ぐ、俺を見上げてくる元就の声は淡々としてて、冷静で。
俺の方ばっかが、混乱と焦りでグルグルしちまってた。

「けどよ」
「申し訳ありません。けれど、これ以上はお付き合い出来ません」

きっぱりはっきりと、元就の口から出てくる言葉に、俺は言葉を失った。

「長曾我部さんは良い方だと思っています。ですが、それ以上の感情は無いのです。
 自分自身に嘘は吐けません。誤魔化す事も出来ません。
 なので、これがお断りする理由と納得して頂けないでしょうか」

申し訳なささと困り切った表情をしている元就が、ゆっくりと頭を下げる。
俺はそれを呆然と見つめるだけだった。
ナニを…ナニを云えばいいんだ?
どうやったら、元就を引き留められる?
元就は結論を出している。
そんで、俺に決着を求めている。
諦めろ、と。縁は結ばれない、と。
終わり? これで終わりってコトなのか。
終わりにしろって。終わりにしなくちゃいけないのか。

「今までありがとうございました。
 申し訳ありませんが、これで失礼致します」

無言なまま、動かない俺に見切りを付けた元就が丁寧な、酷え言葉と一緒に踵を返す。
冗談じゃねえ!
イヤだ。俺は納得してねえ。納得なんか出来るか。したくねえ。
離れていく元就を止めようと、手を動かそうとした時だった。

「元就、迎えに来たぞ」
「孫市さん、お手数を掛けて申し訳ありません」
「いいさ、気にする事は無い」
「ありがとうございます」

目を疑った。ナンでココでアイツが、サヤカが出てくるんだ。
しかも、元就と親しそうに。
一体、俺の目の前でナニが起きてるんだ。

「長曾我部といったな。私は元就の従姉だ」
「…従姉」
「そうだ、大事な従姉だ。
 元就を好きになった趣味の良さは褒めてやろう。だが、本人にその気が無いのだ。
 潔く諦めろ。いいな?」
「孫市さん、あまり…」
「ああ、判っている。元就は何も心配する事は無い。私に任せておけば良い」
「お願いします」

は?

「聞いた通りだ、長曾我部。元就の意志を無視するな。
 何かし出来そうものなら、私が許さぬ。肝に銘じよ」

これってつまり…俺が逆上して、元就にナンかしねえよにの、ボディガードってコトか?
お、おいっ!

「いいな、忘れるなよ、烏めが」
「失礼します、長曾我部さん」

あまりの展開に、俺は辛うじて膝を折るコトはなかったが。
その場に、呆然と立ち尽くした。
元就の去ってく背中だけを目に焼き付けながら。





2012.10.18
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戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキの壊滅…
元親視点、叩きのめされております、伏兵さんに