「私に唄を」 十五


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焦らない
急がない
だって目の前に居る
好きな人は居る
居るのだから

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用意してきた言葉はある。
いや、あった。
けど、それらは元就を目の前にしたら、頭ん中から吹っ飛んでった。
俺はどんだけ元就に惚れてんだ。
久しぶりに見た元就の姿から、目が離せなくなっちまって。
声を聞いただけで、心臓がドクンと鳴っちまった。
前世もそうだった。
元就を見ただけで、全身が騒いだ。
好きだ好きだって、何回も自覚した。
それは、今も変わってねえ。
それが、凄くよく判っちまった。

「それでは、お話を聞かせて下さい」
「ん」

頼んだコーヒーがテーブルに置かれて、元就から口を開いた。
伸ばした背筋。
真っ直ぐな視線。
動かない表情。
これが最後って、強い意志がビンビンに伝わってくる。
けどな、めげねえよ?
こんぐれえで、たじろがねえ。
俺は、玉砕覚悟なんかしてねえからさ。
ゴメンな、元就。
追い詰めさせて貰うな。

「毛利、元就」

息を一つ吸い込み、俺は丁寧に発音した。
嘗ての、安芸の国主の名前を。
元就の肩が、ピクンと撥ねた。少しだけ。
目が一瞬、驚いた。口元も、引き締まった。
ホントに些細な、その変化を俺は見逃さなかった。
それを見たかったんだ。
今、この目で確認した。
そして、確信した。元就にも記憶はある。
あるんだ。

「俺は、長曾我部元親だ」
「…それは、存じております。それが、一体何が…」
「毛利元就だろ」
「ええ、私の名前ですが」
「記憶あるんだろ、俺と同じ」

今度は、全身が緊張で固まった。
卑怯な手段っての判ってる。
けど、元就を揺さぶるんだったら、あらゆる手を使ってやる。
逃がさねえ。
あん時の後悔は、もうしたくねえ。

「何を仰っているのか判りません」
「判らないフリしなくていい」
「長曾我部さん、言い掛かりにしか聞こえません」
「言い掛かりなんかじゃねえさ、ホントのコトだ」

きっぱりと言い切ると、元就は俺を睨み付けようとして、慌てて視線を下に落とした。
そうだ。もっと感情的になってくれ。
隠すな。
俺も晒す。有りの侭を。全部、晒け出すからよ。

「大昔に瀬戸内の海を挟んだ敵国の主同士だったろ」
「何を…」
「俺は覚えてる」
「………」

元就が黙り込んだ。言葉を返せなくなってる。
つまり、動揺したんだ。俺の言葉に。
ココは一気に畳み掛けるぞ。容赦しねえ。
追い詰めて追い詰めて、悲鳴上げるまで。
自惚れさせてくれ。
俺だけが、それを出来るんだって。
俺にしか、出来ねえんだって。

「敵同士で、国背負って戦ってたのも、そんでも国の為にって同盟組んでたのも」
「………」
「全部、鮮明にってのは無理だけどよ、曖昧なトコもあっけど、覚えてんだ」
「………」

元就の頭が伏せられる。
俺を見られないってのが、記憶があるって一番の証拠だ。
そうじゃなかったら、今頃、俺は頭の可笑しい奴って哀れんだ目で見られてる筈だろ。
記憶があるから堪えられないんだろ。
態度だけでなく、言葉も今、引き出してやるからな。

「毛利元就を好きだってコトをさ」
「な、何をっ」
「昔も好きで、今も好きなんだよ、俺は、元就が好きなんだ」
「長曾我部っ…さん」
「長曾我部、でいいぞ? 【さん】付けられっとむず痒い」
「馬鹿な事を」
「お、口調元に戻ったな」

ハッと気が付いた、元就が慌てて口を押さえる。
もお、遅いけどな。
眉が困惑して下がってる。
目が俺を見ようとして、逸らして、落ち着かねえ。
ひとつひとつドミノ倒しみてえに、元就が強固に隠してたモンが剥がれてく。
俺が待ち望んでたモンが、出てくる。

「ずっとさ、云いたくて云えなかった、好きだってコトが。
 昔のあん時に云ってたらって、散々後悔してたおかげで、今もしてる」
「我は」
「好きなコに好きだって云える時代に生まれてラッキーだよな。
 だから、云わせてくれ、聞いてくれ」

元就の顔が、俺へと向けられる。
沢山の表情を乗せて、それでも俺へと真っ直ぐに。
ありがとな。

「俺は元就が好きだ」

渾身の力を込めて、俺は元就へと告白をした。





2012.11.15
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戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキ、突撃
元親視点、根拠の無い自信で何処まで闘えるでしょうか