「私に唄を」 十七


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何度繰り返しても構わない
同じ事でも
呆れる程繰り返せば
諦めなければ
願いは叶うのだから

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「なあ、元就ぃ」
「………」
「まあだ、終わんねえの」
「………」
「なあ、元就ってば」
「煩い、話し掛けるなと云ってあったろう」
「えー、でもよー」
「それ以上、口を開く気ならば」
「あ、タンマタンマ」

俺は慌てて自分の手で口を塞ぎ、静かにします、のジェスチャーを取った。
吊り上がり掛けてた元就の眉に、俺はセーフセーフと心ん中で祈った。
俺の愁傷な態度をジロリと一睨みした後、元就は再びノーパソのキーボードを叩き始めた。
俺は墓穴を掘るまいと、口を塞いだまま、机の上に突っ伏した。
元就の前、元就の顔が見えるように。

ココは、放課後の図書館だ。
で、元就は明日提出のレポートを大急ぎで仕上げてる最中なんだわ。
俺との初デートの為に。
やっと漕ぎ着けた、初デート。俺は勿論のコト、元就も楽しみにしてる筈だ。
口に出さない、態度にも出さない。
そんな元就だけど、俺には判る。
あの日から。

あの日、俺も元就も記憶があるが判って。
あーだこーだと言い訳する元就を半分以上はハッタリの口説きで、口説き落とした。

記憶があるのを全面的に暴いた、その後。
あんだけ抵抗して、逃げを打って、しらばっくれる気満々だった元就は。
認めちまってからは、早かった。開き直りが。
ころりと変わった…いや、元に戻った昔の口調。
楚々としたお嬢様の姿で、あの唯我独尊の態度。
つい、懐かしさで一杯になっちまった。
俺が惚れてた毛利元就が、居た。
昔の通りのが、そして、今の元就が。
ただ、氷の面じゃねえ。
ゆっくりと、俺へと向けてきた顔には表情があった。
愛おしさで胸が詰まっちまった、元就の泣き笑いの顔に。
ああ、やっと俺達は向かい合えたんだって思ったんだよ。

長かった、ような。
短かった、ような。
俺は今、そんな夢心地だ。
ずっと、元就のコトを追い掛けてきた。
ずっと、上手くいかなくてよ。
焦って、焦れて、落ち込んで。
そんでも諦めきれねえ気持ち抱えて、正直しんどい時もあった。
けど、それ以上に元就を諦める気が一欠片も湧かなくてよ。
どんだけ、俺は元就に惚れてんだって、自分に突っ込みしたりしてよ。
もう一回、会えんのを待ってた。

それが、やっと叶った。
俺の目の前に、元就が居る。
それが現実だってコトに、夢を見てる気になる。
目を閉じたら終わりのような…。

「長曾我部」
「あ? ナンだ?」
「…良いのか」
「ああ」
「本当に良いのか」
「ああ」

ホントにイイんだって。
元就がナニを云いたいのか、判る。
俺は元就の顔をしっかりと見て、返事をしてやった。

「そなたは、相変わらずに馬鹿者なのだな」
「オイオイ」
「我など…」
「俺が元就がイイんだよ。ずっと惚れてんだ。今更だって」

どうして、そんなに自信がナイのか。
どうしても、判らねえんだけど。
元就はまだまだ自虐に走る。
相応しくないって言葉を口にする。
しかも、それは俺がじゃなくて自分がってコトで。
理由は云ってくんねえけど、そこが元就のトラウマらしい。

『我にそなたが飽いたとしても恨みはせぬ』

取り敢えず、怒濤の勢いで否定はしてある。
俺が元就に飽きるなんて、未来永劫ねえって。
それをこれから地道に叩き込んでやるからな。

俺が元就に惚れてる。
元就も俺に惚れてる。
そんだけでイイんだってコトを。

「なあ、元就」
「何ぞ」
「明日、どっか行きてえトコとかあるか?
 リクエストあったら云ってくれな」
「………我は」
「ん? ドコ行きてえの?」
「そなたが居るなら…」

へ? 自分のセリフの意味深に今更気付いて口押さえても遅えって。
しっかりと、俺は聞いちまったし、俺の顔も赤くなった。
なんちゅー爆弾宣言してくれるんだ、このお嬢さんは。

「い、今のは…っ」
「俺もだ」
「長曾我部っ」
「俺も元就と同じだ」

手を伸ばして、ノーパソの上で止まっていた元就の手を握る。
思いっ切り、ぎゅっと。





2013.01.11
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戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキ、この世の春を満喫中
元親視点、デレデレしてます、顔緩みっ放しですv