「私に唄を」 三
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どっちなのだろうか
肯定なのか
否定なのか
本当はどっちなのか?
お願いだから教えて欲しい
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どっからどう見ても、毛利だった。
真田と同じで、女の子だったが毛利だった。
俺が見間違えるワケがねえ。
けど。
けど…。
あれは、どっちなんだ。
本当に記憶がナイのか、忘れてるのか。
全く覚えてねえのか、隠してるのか。
全然、判らねえ。
『初めまして、毛利元就と申します。
今日は真田さんの好意に甘えてご一緒させて頂けて嬉しいです。
どうぞ、宜しくお願いします』
にっこりと微笑まれた。
こんな顔も出来るのかってくれえの、信じられねえ笑い方だった。
昔の毛利からじゃ想像も出来ねえくらいの、可愛い笑い方だった。
第一、物怖じをしてねえ。
雁首揃えた俺達の前で、動揺ってモンが全然見らんなかった。
記憶があったら、そんな落ち着いてなんかいられねえだろ。
全く、初めての人間を見る眼だった。態度もだ。
礼儀正しく、節度を持って、毛利は周りに気を遣ってた。
勿論、俺にもだ。
真田の手前もあって、突っ込んだコトは聞けなかったけどよ。
当たり障りのねえコトなら、スラスラと答えてきた。
実家が広島だとか、真田と学部が一緒だとか。
そんなコトぐれえだけど、もし記憶があったら話すかって疑問が湧く。
「なあ、元親」
「んー」
「ねえ、チカちゃん」
お茶した後、猿飛が真田を送るついでに、毛利を駅まで送るってコトになって。
俺達は解散した。
俺は左右を慶次と政宗に挟まれて、歩いていた。
「毛利さん…だよね」
「毛利以外ねえだろ、あれは」
「…だよな」
俺と同じ疑問は、慶次と政宗にも当然あって、俺と同じく途惑ってる。
毛利の態度に、毛利の記憶の有無に。
見極められねえコトに。
「どっちだと思う、お前らは」
「うーん…」
「判らねえ、マジで。お前はどうなんだよ」
「俺だって、判らねえんだよ」
「チカちゃんが判らないんじゃ、俺達お手上げだって」
茶化しも出来ねえ程、緊張しまくってる。この状況に。
一体、ドコからナニを考えればイイんだ。
頭ん中がパニックを起こしてる、俺だけじゃなく慶次も政宗も。
「と、兎に角さ、様子見じゃないかなあ」
「そうだな、あの人相手じゃ下手に動かない方がいいだろ」
「…けどよ」
「けど、何だよ」
「いや、ナンでもねえ」
「いいの? チカちゃん」
「ああ…」
「何だ、煮え切れないな」
「スマン」
一番の問題は、毛利に記憶が本当にあるのかナイのか、だ。
けど、それよりも俺が気になってるのは…。
毛利が女の子だったってコトだ。
しかも、俺の好みのど真ん中。
戦国時代の時もよりも、更に…パワーアップしてるつーか。
ナンなんだよ、あの可愛らしさは!
ヤベえ、ヤベえ、どうすりゃイイんだよ!
ぜってえ、俺のモンにしてえ。
誰にも見せたくねえ、触らせたくねえ。
手なんか他の奴等に出させるモンか!
「チ、チカちゃん、どうしたの?」
「おい、何興奮してんだよ、お前は!」
両脇からの心配と呆れ声と、盛大に叩かれた背中の痛みに。
俺は、一つの決心をしてた。
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流石、猿飛。
あの時、真田と一緒に送りつつ、毛利のある程度の情報を手に入れていてくれた。
で、記憶のコトは、猿飛も判断は付きかねないってコトだった。
兎に角、普通。
普通の、頭の良い、今の時代の女の子だったって云われた。
口数は少ないけど、真田のおしゃべりと気が合うらしく、相槌もチャンと打つ。
猿飛の冗談にも、笑ったらしい。くそっ。
ナニ、羨ましいコトしてんだよ。
美人過ぎて、ちょっかいは出しにくい、高嶺の花っポイから。
早々、誰も手出し出来ないから、安心しなよ、鬼の旦那。
そう猿飛が笑いながら、報告を締めた。
あー、それはそれで安心だけどよ。
違う、違うって、そうじゃねえ。
毛利がそう簡単に、誰かのモンになるとは思ってねえ。
けど、俺のモンにはなって欲しい。
その為の段階をどう踏んでいったらいいのかが、俺の当面の課題だ。
今まで通りの、いつも通りの手なんか、通用しねえだろ。
この世に生まれて、それなりに付き合ってきた子はいる。
けど、その子達と毛利は違い過ぎる。
どっから攻略…出来るんだろうか。頭が痛え。
でもな、諦めねえさ。
俺も毛利も、生まれ変わってきたんだ。
あん時と同じコトはしねえ。同じ轍は踏まねえ。
今度こそ、俺は毛利と幸せになってみせる。
そう誓った、俺は偶然を装って、毛利の学部の校舎の近くで。
帰り掛けの、毛利へと明るく声を掛けた。
2012.09.24 back
戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキ、色々探り中
元親視点、ナリちゃんに惚れてるのは相変わらずv