「私に唄を」 五
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凄い真剣で
初めてなくらいな本気で
全力投球のつもりだけど
どこまで何をしたら
成功するんだろうか
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すごすごと引き下がるワケにだけはいかねえ。
諦めたら、そこでお終いだ。
それがヒシヒシと緊張感と焦燥感に苛まれる。
マジ、諦めねえ。
毛利のコトは。
生まれ変わったんだ。一から出来るんだ。
真っ新の、最初っからの関係を結べるんだ。
絶対に結んでやる。
逢えたってコトは、そういうコトだろ。
難攻不落だろうが、ナンだろうが関係ねえぞ!
と、意気は巻いてるが、毛利はすんごいお嬢様だった。
地方出身だから、こっちには一人暮らし。
けど、セキュリティ万全のマンション。
しかも、女子大生用のに住んでる。
肉親での、身内以外の入館は絶対禁止。
オマケに門限もある。…夜の9時ってナンだよ!
一歩、そん中に入ったら、出てくるまで連絡も出来ねえ。
何しろ、毛利は携帯を持ってねえんだ。
ようやっと交際OK貰った時に、メルアド交換しようぜって聞いたらよ。
あっさり、持っていません、って云われてよ。
ウソだろっ、て驚いたさ。けど、必要を感じないときたもんだ。
だから、持ってねえって。イマドキじゃねえよな。
家族との連絡は部屋に付いてる電話で足りているから、イイってよ。
はあーっ。
前途は多難。
付き合いも、恋人じゃねえ。友人でもねえ。
知り合いの初めの一歩ってトコ、だ。
俺のコトは知らないから、付き合えないと云われて。
何度も何度も、じゃあ、これから知ってくれればイイって食い下がったモンな。
俺の粘り勝ち、だ。
けど、現在は亀より遅い歩みだ。
ホント、動いてんのかって疑いたくなる程の清い付き合いしてるモンな。
何しろ会えているのが、講義が終わった後のみ。
デートは誘ってるけど、連敗中。
マンションの前まで送るのが、ほぼ日課になってる。
少しは打ち解けてるのかも判らねえ。
警戒心はまだ有り有りだしなあ。
そんでも、多少の話は出来るようになってるしなあ。
努力してるモンなあ。俺。
しっかし、うーーーーーーん。
記憶の有無は、未だ判断つかず、だ。
どっちなんだろうなあ。
俺は、どっちを望んでんだろうなあ。
毛利の記憶があった方がイイのか。
ナイ方がイイのか。
それが、イマイチはっきりしねえ。
ただな。
毛利の傍にいてえ。
それだけは、はっきりしてんだ。
毛利を幸せにしてやりてえ。俺と一緒に幸せになって欲しいんだ。
それをどう伝えて、判って貰えるかだよなあ。
ウン、頑張れ、俺。
これからだ。時間はあるって。
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「元親、鬱陶しい」
「まあまあ、大変なんだよ〜、判ってあげようよ〜」
「けど、この展開は予想してたんでしょ、鬼の旦那」
片倉さん経営の呑み屋で、有り難くないダチ達に囲まれて。
俺はテーブルに突っ伏してた。
経過を話せ、話すのが義務だとか云って、ココに引っ張られて来た。
初めは意気揚々と喋り出した俺なんだが、段々話してくうちに。
自分の状況が、くっきりはっきりしてよ。
………うわっ、ゴンッとテーブルに落っこちたワケだ。
諦める気はサラサラねえ。
けど、この一進一退もしねえ状態は…どうやったら、抜けだせるんだ。
せめて、記憶のアルナシが判ったらなあ。
そーしたら、糸口くれえ掴めるかもしんねえのになあ。
ナイならナイで、俺も一切口にしねえ。
それならそれでの、付き合いを毛利としてく。
アルなら、そこからナンとかしてく。
そう決心も覚悟も出来てんだけどなあ…。
でもよー。
やっぱよー。
もうちっとこー、ナンか進展が欲しいんだよ!
頑張ってる、ご褒美的なモンが!
「あのさー、あんま焦んない方がいいんじゃないの」
「そうそう、若さ故の暴走なんてすんじゃねえぞ、犯罪者のダチなんてゴメンだからな」
「2人とも〜、もう少し柔らかめにしてあげようよ」
「ん〜、旦那だったら大丈夫だよ、少しきつめの方が釘差しにもなるしね」
「俺らに大口叩いた以上、それなりの働きはして貰わねえとな」
「が、頑張りなよ、元親。皆、応援してるわけだからさ」
有り難くって涙も出ねえ。
一々、云うコトが正論過ぎるんだよ、お前ら。
傷心なトコをぐさぐさと遠慮なく抉ってくんじゃねえ、つーの。
「ほら、俺の奢りだ」
「…片倉さん」
「男が一旦決めた事だ。貫く気でいるんだろう?」
「勿論ですよ」
「だったら、俺は何も云わねえ。頑張れ」
「ありがとうございます!」
ああ、人の情けが、片倉さんの優しさが心に沁みるぜ。
兎に角、諦めねえ。
強く強く、何度も心に誓ったコトを再確認する。
俺は絶対に、毛利を諦めねえってな。
んで、この夜は日頃の鬱憤も含めて、ついつい酒をエスカレートさせてしまった…。
2012.09.27 back
戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキ、自己中過ぎだって…
元親視点、強気もあれば、弱音も吐き中v