「私に唄を」 七
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先が全く予想出来ない
解けないパズルみたいで
抜け出せない迷路みたいで
途方に暮れた溜息は出るけれど
諦める気持ちは全然出て来ない
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うーっ、昨日は流石に呑み過ぎた。
寝込むまではいってねえけど、珍しく2日酔いしてるわ、俺。
グチは吐き出しが、頭が痛え。ズキズキする。
やっぱ、それなりに落ち込んでたんだろうなあ。
全く、毛利に相手にされねえコトに。
昔より、難攻不落。
つーか、どっから手を付けたらいいんだーっ、なんだな。
前世ん時も、すげえ悩んだな。そんな記憶がぼんやりある。
あの氷の面の智将をどうやったら、俺のモンに出来るんだろってよ。
考えるばっかで、実際はナンもしなかったけどさ。
アレもコレも、ってよ。
欲張って、望んでばっかで、結局は殆どナンもナイままだった。
あの一夜だけ、だ。
曖昧な、ぼやけた映像しか浮かばねえけど。
あん時の、泣きそうな、嬉しそうな顔が…俺の願望が見せたモンかもしんねえが。
忘れらんねえ。しっかり覚えてる。
ホントにあったコトだって、云える。
…ナンの確証もねえのにな。きっと、これが縋ってるつーんだろうなあ。
どんな些細なコトでもイイ。俺と元就は繋がってるんだって、自分に言い聞かせる為に。
ヨシ、いつものセルフ励まし完了。
これで暫く又頑張れるぞ。
と、バイトまでまだ時間あるな。
この2日酔いの頭痛を少しでもスッキリさせる為に、コーヒーでも飲んでくか。
ドコでもいっかと、思いつつ丁度目に付いた、雰囲気のイイ店に俺は入ってった。
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カラン、と澄んだドアベルの音と一緒に店の中に入ると。
お好きな席へとどうぞ、って声が掛けられた。
んじゃ、ドコに座ろうかと目を巡らすと、俺はウソだろって口にしてた。
毛利が居る。
見間違えるなんてしねえ。
見間違えようのねえ姿形してんだ、俺は直ぐに近寄って声を掛けた。
偶然でもナンでも、毛利にこんなトコで会えたのが嬉しくてよ。
「…長曾我部さん?」
「よっ、コンチハ」
毛利が心底ビックリした顔で俺を見上げてくる。
その表情が、メッチャ可愛い。可愛くて口元が緩んだ。
このまま、一緒にお茶出来ねえかな。
そんな野望を掲げたトコで。
「元就、そちらの方は」
「あ、はい、大学の先輩で長曾我部さんという方です」
へ? いきなりの声掛けに、俺は初めて毛利が一人じゃなかったのに気が付いた。
テーブルを挟んだ向こう側に、男が一人。だ、誰だ?
今、下の名前呼びしたよな。当然のよーに。
「長曾我部さん、私の兄です」
「えっ、わっ、はっ、初めまして、長曾我部といいます」
思いっ切りどもった。
舌噛むトコだった。
よく見ると、毛利と似てる。そっか、兄さんか…って、もしかしてこの人って。
「兄の毛利興元です、初めまして、長曾我部くん」
「は、はい!」
ビンゴ! やっぱ、興元さんだった。
昔の毛利から何回か聞いてた、毛利が一番尊敬して大切にしてる兄さんだ。
早死にしてたから、俺は会ったコトはなかったけどよ。
この人も生まれ変わってたのか。しかも、兄妹で…。
「長曾我部くんが良かったら、合い席でお茶をしないかい?」
「兄様、ご迷惑です」
「イヤ、全然迷惑なんかじゃないです」
「ほら、長曾我部くんはああ云ってくれてるよ、元就」
「ご迷惑じゃなかったら一緒させて下さい」
「兄様…長曾我部さん…」
「どうぞ、座って座って」
困惑してる毛利の顔に、図々し過ぎたかと思ったが。
興元さんがイイって云ってくれてるんなら、ココは居座ってやる。
勧められた興元さんと毛利の間の椅子に、俺は腰を下ろした。
「珈琲でいいかな」
「はい、丁度飲みに来たトコロなんで、コーヒーでお願いします」
「そうかい、それは丁度良かった訳だね」
「はい、そうなんです」
緊張する緊張する。糸がピーーーーーーーンと張り詰めてる気分だ。
けど、これはぜってえに絶好の機会だ。
他力本願なんて判ってるが、これでナンか毛利とのコトが動く気がする。
その為なら、俺はどんな試練も受けてやるぞ。
「長曾我部くんは元就の先輩という事だが」
「はい、一年上です」
「学部は?」
「理工です」
「おや、元就とは違うんだね、どうして知り合ったのかな」
「兄様、もう…」
「俺が毛利さんに交際を申し込んだからです」
「長曾我部さんっ」
俺の爆弾宣言に、毛利が焦った声を上げる。
目は困り切ってて、制止を訴えかけてくる。
けど、こんなチャンスはねえ。俺は逃す気はねえんだ。
「そうなんだ。それで元就はどうしたんだい?」
「色好い返事はまだ貰っていないので、果敢にアタック中です」
「止めて下さいっ」
興元さんの楽しそうな笑い声。
俺の真剣な告白。
そんで、毛利の切羽詰まった言葉と真っ赤になった顔が。
この場をどう収拾付けるのか、付ければ、俺の株が上がるか。
俺は腹を据えて、必死に考えた。
顔だけは冷静を装った不敵の笑みを浮かべて。
2012.10.12 back
戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキもそれなりに落ち込んでいたのですが〜
元親視点、味方が出来そうで気分上昇、発憤中v