「私に唄を」 九


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努力は確かに必要だけれども
何故か上手くいく時はある
その波に乗れるか乗れないかは
運なのか
やはり努力なのか

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「遅いぞ、元親」
「悪いって、間に合ってんだろ」
「五分前行動だろうが」
「ああ、判った判った悪い悪い」
「口よりさっさと支度しろ、時間厳守だ」
「はいよ」

バイト先は、政宗からの紹介のバトラーカフェってのだ。
今流行りのだってらしい。執事の格好をして、お客さんを雇い主として迎えるっての。
初め、ナンだそれだったんだが、要領を飲み込んじゃえば面白いモンだった。
時給はイイんで、時間が短くて済む。
シフトも結構、融通を利かせてくれる。
俺の外見が目立つモンなのと政宗とのコンビが、ナンかウケてるらしいんで。
適度に要望は叶えてくれる。休みとかさ。
へえ〜っ、てなモンだ。
世の中の流行りモンてのは、不思議なのがあるよなあ。
この服着て、接客ってのは面食らったけどよ。
店の雰囲気を壊さないってのが不文律らしく、お客さんの質もイイ。
キャーキャー表立っては騒がねえ。
ルールを守って、マナー良く、良家のお嬢様を演じてくれてる。
それに、俺らは合わせればイイってコトだ。
ホント、面白れえ。
政宗の猫被りが見れんのも、面白い。

「元親、行くぞ」
「ああ」
「おい、タイをきちんと締めろって」
「首苦しいんだって」
「駄目だ、ほら、直してやる」
「…頼む」

紹介してきただけあって、政宗の方がこのバイトを楽しんでる。
片倉さんの目が離れてるのと、非日常が楽しいらしい。
コイツもある意味屈折してっきからなあ。

「これで良い」
「男前は変わらねえだろ」
「Ha、大口叩きやがって、さ、時間だ、行くぞ」
「了解」

本日は出迎え当番。
よし、時間はOK、間に合った。
それらしい屋敷を模した重厚なドアの左右に立って、俺達は扉を開けた。
その先にあるビックリサプライズなんか、予想なんか出来るかっ。


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ナンとか最初の衝撃からは立ち直ったが、まだ気は漫ろだ。
落ち着かねえ。落ち着く筈がねえ。
猿飛が予約を入れてきてたのは、知ってる。
真田と一緒に来るってのも。
けど、人数が増えたってのは聞かされてなかった。
政宗が云ったぞと、しらばっくれてたが、絶対聞いてねえ。
じゃなきゃ、こんな緊張すっか。
顔が強張ってのんが、自分でも判るんだぞ。
元就が俺を見てるってのにっ!

「…こういったアルバイトだったのですね」
「ウン、まあ…そお」

椅子にちょこんと座っている元就は、ホンモノのお嬢様だから様に成りすぎてる。
このテーブルだけ、オーラが違うような気がすんのは、気の所為じゃねえ。
それを意味深にニヤニヤと笑って眺めてくる猿飛と。
全く気にするコトのない真田じゃなきゃ、同席なんて無理だろ。

「政宗殿も元親殿も良くお似合いです」
「本当に? 本気で思ってる?」
「はい、思っております」
「ウン、そうだね。思ってあげるのは自由だからね」

ニコニコと満面の笑みの真田は、初めて来た場所に興味津々らしく。
周りをキョロキョロと見渡して、普段より大人しめにはしゃいでいる。
猿飛が、一応の釘差しをしといたんだろうな。

「Hey、今日は真田の分は俺の奢りだからな、好きなの頼め」
「ありがとうございます、政宗殿」
「あれ、俺様のは?」
「お前は自腹」
「へいへい、判ってましたけどねー。で、毛利さんのは?」
「当然、コイツ」
「うん、そうだよねー」

いきなりの指差し指命に、俺は面食らった。
いや、当然奢るけどよ。
で、その俺より驚いたのが、元就で。

「いえ、自分の分はお払いしますから、そんなご迷惑掛けられません」

必死に首と手を振っていた。口調はきっぱりと。
うー、ナンか寂しい、つーか。頼られてないってのが、判り過ぎるくらい判る。
さっきの興元さんへの対応とは、まるっきり違う。
まざまざと見せられると、結構凹む。
けど、そんなめげてなんかいられないワケで。
俺は気を取り直して、表情も気合い入れて和らげて、と。

「奢らせてくれないか、迷惑なんかじゃねえし、俺が奢りたいんだ」
「でも…」
「さっき、興元さんに奢って貰ったからさ、そのお礼で」

あー、やっぱな。興元さんの名前出すと元就に変化が出る。
ドコまで羨ましい立場に居るんだ、あの人は。
ホント、兄妹で良かったよ。難攻不落どころじゃなくなるぜ、絶対に。

「ココのアフタヌーンセット、本当に美味いんだ。きっと気に入るって」
「…では、お言葉に甘えて」
「紅茶は何にする?」
「アールグレイでお願いします」
「はい、元就お嬢様」

どさくさ紛れで名前を呼んでみる。
それに気付いた元就の眸が、丸くなる。
目元がほんのり赤くなったのをしっかり見てホクホクしてる俺の脇腹を。
政宗が小声で、二人の世界すんなと的確に肘で小突いてきたのに。
その場に蹲るのだけは、ナンとか耐えた。
元就から視線を外さずに。





2012.10.14
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戦国設定の「貴方に花を」からの続きの話です
アニキのバイト先露呈、東西コンビ愉しい〜
元親視点、バイト姿を見られてアタフタ?