V.I.P *C*


--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--

甘い日
甘い時間
世間的ものを
せめて世間並に
それを過ごせるかどうかは…

--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--

2月に入った途端、周りが空気が騒ぎ出す。
チョコレート戦線の煽り文句に。
まあ、俺もその一人なんだけどな。
毎年、この時期になると落ち着かなくなる。

「―で、元親は今年も元就さんにあげるんだ」
「当然だろ」
「Ha、つまり今年も尻に敷かれてるワケだ」
「別にイイだろ」

正面に陣取り左右から喋ってくる慶次と政宗を適当にあしらう。
今更のコトに、一々取り合ってらんねえ。
今の俺には、今年はドコのチョコを元就に贈るかで一杯だ。
あまり物に執着しない元就が、一番喜んでくれる甘い菓子を堂々と渡せる日なんだ。
コイツ等のちょっかい出しに構ってらんねえ。

元就とは高校からの付き合いで、丸5年。
毎回、俺からチョコを贈ってる。
あの無表情が、チョコの甘さに顔を綻ばせるんだ。
絶対に贈るだろうが。
贈らねえワケないだろうが。
あの嬉しそうな一瞬に見せる顔を見られるんならよ。

「でもさ、元就さんからは無いんでしょ」
「ああ」
「要求すればいいだろ」
「んー、別に」

2人は理解出来ねえって顔するが、俺はホントに構ってねえ。
元就がチョコをくれなくてもな。
マジで、強がりでもナンでもねえ。
俺が元就にチョコを贈る。
んで、元就が嬉しそうにする。
それで、充分じゃねえか。
世間一般のバレンタインから掛け離れ過ぎてると云われようが。
お互いに満足してりゃ、それでイイ。
少なくとも、俺はそれでイイ。

元就の為にチョコを選んで、用意してよ。
当日にデートの約束してよ。
待ち合わせの場所に、時間にさ。
元就が居る。
それがどんなに俺も嬉しくなるか。
それを毎年味わえるってだけでよ。
はっきり云って、イイ。

大体、あの鈍チンの出不精の面倒臭がりが、チョコの為とはいえ出てくる。
俺との待ち合わせに。
寒がりだから、一番初めに贈ったバレンタインのチョコとの抱き合わせのマフラーをしてさ。
せっかちだから、待ち合わせ時間より早く来ててさ。
マフラーの中に顔を埋めながら、鼻頭真っ赤にしながら。
俺と会うんだぜ。
これは、俺だけの特権だ。
バレンタインだから、あーしろこーしろってのは野暮ってモンだ。

「まあ、元親が良いんだから俺達が口出す事じゃないけどね」
「だろ」
「本当、アンタは欲が無いなあ」
「はは」

コイツ等のダチだからの心配は、有り難く受け取っとく。
それによ、別に欲がねえワケじゃねえしよ。
いや、欲なんて有り過ぎて困ってるくれえだ。

元就が欲しい。
元就が欲しい。
それこそ、全部。
根刮ぎ、全部だ。
何年付き合うが、どんだけ時間が経とうが。
俺からの想いは色褪せねえ。
より深まるばっかで、呆れるくれえだ。
だからよ、こんな風に恋人同士のイベントってのがあるのは助かる。
一点集中みてえに出来て、適度な息抜きが出来る。
元就が俺からのチョコを受け取るってコトも、な。

執着も独占欲も、元就に関しては。
はっきり言い切れるくれえ、強い。
ハンパなくて、際限ナシだ。
元就を壊しちまうくらいの勢いだ。
その自覚はしっかりとあるんだ。
でもさ、壊したら勿体ナイじゃねえか。
あんなに好きなヤツ、いねえ。
簡単に、見つからねえだろ。
だからよ、大事にすんだよ。
俺は。

「それで今年のチョコは?」
「元就が好きだから、ゴディバだな」
「頑張って貢げ」
「おお」

云われなくても、今年限定のに決めてある。
あとは、今年はどんなシチュにして、どんなデートコースにするかを煮詰めるだけだ。
口にはしないで、態度に出す元就の為に。
口実がナイと束縛されるのを嫌がるフリする、元就の為に。
俺はバレンタインだからって免罪符を突き付けてやろう。
身動き出来ねえ程に。
息も吐けねえ様に。
俺で雁字搦めにしてやる。
ホントは、元就も望んでるコトをしてやる。
うん、と可愛がってやるからな。
覚悟しとけよって、もうしてるだろうな、アイツは。
してねえって、睨み付けてくるだろうけどな。

聖なるチョコの日が、俺は待ち遠しくて仕方ねえよ。
なっ、元就。





2013.02.14
                  back
2013年の瀬戸内バレンタイン話ですv
大学生設定のアニキ視点
…チョイ、ナリを好きすぎて危ないアニキ…かも?