V.I.P *N*
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緊張する
今だに不慣れで
慣れる気になれない
だから感情が動かなくなる
動かせなくなる
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「それで、つまり今年も用意はしていないって事なんだね」
「そうだ」
「元親くんも、可哀想に」
余計な世話だ。
何故、竹中はこうも他人事に口を挟んでくるのか。
親切ごかしに、皮肉を込めて。
我がどうしようと、此奴に何の影響も無い。
それを敢えて、首と口を突っ込もうとしてくる竹中にはほとほと閉口する。
我の事など放っておけば良いだろうに。
「喜ぶだろうに」
「だろうな」
「それが判っているなら、実行すれば良いよ。これから一緒に買いに行くかい?」
「結構だ」
物事は端的に、きっちりとするべきだ。
曖昧なのは好かぬ。
たが、それが通じぬ者が居るのは厄介でしかない。
竹中とはそういう人物である。
「もしもし、毛利くん? 聞いてる、僕の話」
「聞いてはいる」
「はいはい、聞いていても直ぐに耳から抜けてるって云うんでしょ」
肩を竦め、溜息をこれ見よがしに吐く竹中には本当に疲れる。
己の事にだけ精進していれば良いだろうに。
「そりゃあね、僕だって色々と忙しいよ。けどね、友人の為だからね」
「誰がだ」
「元就くんに決まってるじゃないか、いやだなあ」
この会話の噛み合わなさは、種類は違うが長曾我部を思い出す。
阿奴の場合は、勝手に話を進めるが前面にくるのだがな。
腐れ縁―――この一言に尽きるであろう。
我と長曾我部の関係は。
高校の時代から続いているのだ。
よく飽きもせずと、思う。
長曾我部の我に対する執着は薄れる事がない。
無駄に暑苦しいテンションを維持しておる。
鬱陶しさと、我自身の達観と幾分かの慣れが介在する関係だ。
好きだ、と。
惚れている、と臆面もなく言い切ってくる男に。
若干、絆されているのは自覚しておる。
それがなければ、長曾我部など傍に寄らせぬ。
手を握られ、我の都合などお構いなしに連れ回す、あの男など。
『元就』
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みで。
真っ正面で向かい合い、手渡してくる、この時期の限定品のチョコを。
祭り騒ぎに便乗し、我が甘味を拒否しないとの確信犯で。
チョコを長曾我部は差し出してくる。
バレンタインという雰囲気に酔ってるだけだろう。
下手に拒否すると後々が煩いので、受け取る事にしているが。
『元就、ほら』
チョコを摘み、我の口元へと差し出し、食させる。
それを舌の上に乗せ、溶かし、甘みを喉へと通過させると。
更に、笑みを満足な物にする。
それを見る度、思考を掠めていく。
慣らそうとする長曾我部と慣らされていく事に抵抗を覚えなく我に。
言い様の無いものがある、と。
だが、それは突き詰める前に長曾我部の抱擁、啄むのから隙間の無い深く合わせられる口吻けに掻き消される。
本能的な警告はある、のだ。
ただ、我がそれに従わぬだけで。
拘れば良いのだ。
我に。
長曾我部は。
あの気儘な、移り気の激しい男だからこそ。
引き留める術のない長曾我部だからこそ。
如何に、我へと目を向かせるか、労力がいるのだ。
それなりの努力も、な。
「ねえねえ、元就くんってば」
「…何ぞ」
「だーから、チョコレート用意してあげるべきだって云ったじゃないか」
「不要ぞ」
「まあた、そんな強がりばっか云って、後で後悔しても知らないよ」
これで良いのだ。
薄情でいる事が。
無関心でいる事が。
執着の欠片も見せぬ事が、あの男を引き寄せる事になるのだ。
逃げ水の様に、手の届かぬ場所に居る事が重要なのだ。
「もお、本当に仕方ないねえ」
「煩い」
「口も減らないし…あ、お迎えが来たよ」
後ろは振り返らぬ。
気配は疾うに察しておる。
肩を叩かれる。声が掛けられる。
それでも振り向く必要など無い。
ましてや、見上げて顔を見る事もせぬ。
これで良いのだ。
「遅くなってゴメンな、元就。ほら、お待ちかねのモン」
目の前に差し出されたチョコの箱を受け取ってからだ。
振り返り、元親の隻眼と視線を合わすのは。
それで丁度良いのだ、我と元親は。
2013.02.15 back
2013年の瀬戸内バレンタイン話ですv
大学生設定のナリ様視点
…糖度ゼロ、チョコの甘さはドコいった?
…的などっちもどっちなオチな話です( ´∀`)