嗚呼、素晴らしき! 野良猫side
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出て来る?
出て来ない?
どっちか選んでよ
どっちかに決めてよ
そしたら攫ってあげるから
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暢気で気儘で冒険があって。
危ない橋を渡るのもスリルがあって。
面倒よりも面白いが勝っちまう毎日。
それが、野良猫をやってる醍醐味だ。
俺はそれを満喫してる、野良猫だ。
名前は元親だ。この地域のボスもやってる。
で、そんな俺が、夜の散歩中に見つけたのが、飼い猫の元就だ。
綺麗な毛並みの外見は可愛らしい飼い猫で、窓から外を眺めてた。
その目が、外に出たいって云ってるみてえで、俺は思わず声を掛けた。
なのによ、外になんか出たくないって云われちまった。
素直じゃねえにも程がある。
ぼんやりと、それでも外の景色をしっかりと見てたクセによ。
ナンで、あんなに突っ張るのかねぇ。
別にイイじゃねえかと、俺は思ったんだが。
元就には元就の事情があるらしい。
けど、そんなコトで俺か諦める気はなかった。
何しろ俺は、元就にいっくらフンッとされても元就のトコに通うのを止めるつもりはなかったし。
俺が行かなかったら、元就は一匹で寂しそうに外を眺めてんだろ。
そんなの可哀想じゃねえか。
俺が行って、話し掛けて、外に誘ってやんなきゃよ。
だからよ、俺は時間を作っては毎日、元就んトコに行ってやった。
ツンツンツーンとした態度を崩すコトはねえんだけどよ、元就が俺を待つようになってるのは、態度から判ってきた。
大体、俺の顔なんか見たくない、二度と来るなって云うクセによ、毎日ちゃんと出窓のトコに居るんだぜ?
そんなの俺を待ってる以外理由なんかねえだろが。
元就にそれ云ったら、シャアーッて毛並み逆立てるだろうから、云わねえがよ。
ナンつーか、可愛いよな。
そんな意地っ張りなトコもよ。
元就はちっこい猫だ。
俺の二回りくらいは確実にちっさい。
しかも、細い。ちゃんと喰ってんのかってくらえに。
けど、気は強くて、窓越しといえど俺に威嚇してくるしよ。
俺、元就よりずっとデカイんだぜ?
怖いモン知らずにも程がある。
俺じゃなかったら、元就なんか簡単にねじ伏せられちゃうぜ?
猫社会なんて厳しいんだからよ。
力ってモンがいるんだからよ。
まあ、飼い猫で家ん中だけの暮らししてる元就だからイイんだけどな。
けど、そんな元就を俺は外に連れ出してえ。
一緒にアッチコッチ行って、色んなモンを一緒に見てよ。
遊んで、笑ったり、ビックリしたりよ。
色んなコトを一緒に出来たらイイなって、ずっと思ってるワケだ。
だってよ、楽しいだろ、絶対に。
だから、俺は今日も元就んトコに行くってワケだ。
「元就〜」
「…又、来おったのか」
「そりゃな」
「我は行かぬと云っておる」
「でも気が変わるかもしれねえじゃないか」
「そんな事は決して無い」
ありゃ、またいつも通りにツーンと横向いちまった。
けど、見慣れりゃ、そんな仕草も可愛いんだって。
とにかくよ、俺は元就に惚れてんだからよ。
「あるかもしんねえじゃないか」
「何故、そなたはそう言い切れるのだ。我が無いと云っているのだ。無いに決まっておる」
「気紛れが起きるかもしれねえだろ」
「無いと云うたら無い」
あ〜意固地に入っちまった。
ツンツンが更に激しくなっちまった。
こうなると、コッチも向いてくれなくなるんだよな。
んー、じゃ仕方ねえな。
今日は撤退すっか。あんま機嫌を悪くさせちまうのも良くねえしな。
俺はよっこらせと身体を浮かせ掛けた。
「あっ…」
俺の動作に慌てたカンジに、元就が声を上げた。
目が行くのか、行ってしまうのかって、揺れたんだ。
それを俺はしっかりと見ちまった。
俺は腰を下ろさず、元就を見返した。
「どした?」
「な、何でもあらぬ。帰るなら帰れ」
「俺に帰って欲しくねえんだろ」
「そ、そんな事は云っておらぬ」
「云い掛けたじゃねえか」
「い、云ってなどおらぬ」
俺から目を逸らして、小さな頭を左右に振って、必死に言い訳する元就が。
メチャクチャ可愛かった。
ナンで、元就ってば、こんなに可愛いんだろうな。
元就がさ、その口で云ってくれたら、してえコト云ってくれたらよ。
俺はナンでも、元就の望みは叶えてやるのによ。
ココから連れ出してやるのによ。
「元就」
俺は窓のガラスに鼻先を軽く押し付けた。
一枚の透明なガラスが俺達を隔ててる。
そのひんやりとした感触に、身体がブルッとした。
武者震いってヤツか?
「元就」
も一度呼ぶと、元就も怖ず怖ずとガラスに近寄って来た。
「も少し居るよ」
「…そ、そうか。勝手にすれば良い」
「ああ、勝手にするさ」
腰を下ろして、ガラスへと擦り寄る。
目で、元就もコッチ来いって誘うと。
元就はほんの少しだけ、ガラスへと頭を寄せてきた。
このガラスがなかったらなあ。
元就のふわふわに触れるのになあ。
「いつか…」
元就に聞こえねえように、俺は呟いて。
絶対にココから元就を連れてく強い決心を俺はした。
なっ、一緒に行こうぜ、元就。
2013.02.24 back
2013年の222の日、遅刻だけど、にゃんこ瀬戸内v
野良猫アニキと飼い猫ナリのお話です
にゃんこアニキ視点です、いつか駆け落ちするんじゃねえか、コイツ