- 証 - 1 -


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会える
会えない
会いたくない
会えなくていい
どの選択肢が一番良いのだろうか

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物心付いた時には、もう記憶があった。
戦国時代に中国の国主として生きた時の記憶が。
一気に蘇った記憶の所為で、熱を出してしまい我は寝込んでしまった。
重すぎたのだろう。幼子の精神にも身体にも。
負担は大きかった。
一週間程寝込み、今生の両親に多大な心配を掛けた。
その事は今でも申し訳ないと思っている。
いきなりの高熱の上に、医者にも原因不明では心配掛ける。
しかし、この時の幼い我が説明を出来る筈もなく。
ただひたすら、発熱の中、記憶の整理に集中していた。
疑問など浮かぶ事なく、己が『毛利元就』だったのを受け入れたのだ。
そして、やっと熱が下がった時。
我は『毛利元就』を過去に、分類する事が出来た。
今生を生きるのには、必要が無い。
そう判断した為だ。
身体が快復し、両親を安堵させる事は出来た。
だが、記憶を戻してしまった我は、ある程度は醒めた子供となってしまった。
それは仕方無いであろう。
記憶の無い以前とは、全く同じとは無理がある。
知ってしまったものは、知らないふりしか出来ぬ。
戦国の武将の記憶を持ってしまったのだ。
子供の擬態をするのが、一番の得策であろう。
そう決め、我は今まで通りを心懸け、両親に子供として接してきた。
今生を無難に生きる為にも。

記憶を戻したのが、三歳の時であった。
その後、三歳離れた妹が生まれた。
それが、あの伊予の姫巫女、鶴姫であったのには流石に驚いた。
妹も我と同じ三歳の時に記憶を戻した。
同じように高熱を出した妹に、もしやと予感した通りであった。
大変、驚きはしたのだが、同じ境遇を持ったという事はある意味心強い。
鶴姫も、我の存在が有る事で大きな動揺も見せなかった。
逆に、秘密の共有を楽しんでいるようであった。
天性の性格も大きいであろうが、その度胸の据わり方は昔の姫巫女らしく。
我も一人思い悩む事なく、頼もしかった。
我一人でも何とかしてしまえるが、鶴姫の存在は気を楽にさせる。
一人だけでは無い、という安心感だろう。
昔の我ならば、こんな風に考える事はなかったのだが。
やはり、転生した事で心情にも変化は出るのだろう。
兎に角、無難今生の生を全うする。
それが、目標であった。

『ナリ姉さま、大丈夫ですよ、何かあった時は私がドーンとお助けしますから』
『ほお、随分と頼もしい事だな』
『ええ、だからその時は私にちゃんと相談して頂かなきゃ駄目ですからね』
『ああ、その時は頼むとしよう』
『はい、お約束しましたからね、絶対ですよ』

にこにこと笑いながら、約束を取り付けてくる妹に。
多少の苦笑をしながら、感謝をしていた。
我には一つの憂慮がある。
これが無ければ、もう少し今生も生きやすかろうと思っておる。

それは…。
口に出すのが憚れるが。
まさか、こんな風に我が生まれるてくるとは。
女の身で転生するとは、思いもしなかった事だ。

そして…。
ここから一つ派生する問題があり、その問題が重く伸し掛かってくる。
杞憂となれば良いと、心底思うのだが。
我が介在出来る問題ではない為、考えると頭が痛くなるだけなのだが。
我が転生したという事は、あの男も転生をしているのではないか、と。

長曾我部元親、が。

それを考えると気鬱で仕方が無いのだ。
こればかりは、鶴姫にも相談など出来ぬ。
ただ、ひたすら遭わずに済む様にと祈るばかりであった。





2013.07.03
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瀬戸内転生話、アニキにょナリです
色々と捏造してます、笑って許せる方だけ宜しくです
チョイ弱気、ナリ様視点です