未来占いⅳ

【未来占い】　ⅳ

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何が正しいのか
何が悪いのか
それら全てが消え失せる瞬間を
体験する
たった一人の前では

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動け、と思えば思う程に。
手も足も、我の思い通りにならなくなっていた。
信じられぬ。
ただ、立ち上がれば良いのだ。
椅子から。
そして、本を手に持ち、この場から去れば良いのだ。
何事もなかった様に。
そうなのだ。実際、何も無い。
あるとしたら…。
この場に留まる事から、引き起こされる事があるというだけだ。
判り過ぎている事だ。

背後から、音がする。
椅子が動く音。
人が歩いてくる音。
それらは、全てあの男が出している音だ。
動こうとせぬ…動けぬ、我は。
待っているのか、あの男を。

「毛利」

懐かしいと感じてしまった。
誰でもない。昔、呼ばれていたと同じ声色に。
変わらぬものがあるのだと、知って。
我の胸の中には、喜びが広がった。
あの時代から、変わらぬものもあったのだと。
名を呼ばれた事で、長曾我部の記憶があるのだと。
我は喜んでいた。
そして、喜んでいる己に、我は…。

「毛利、会いたかった」

言うな。聞きたくなど無い。
そのような言葉、我に聞かせるな。
これ以上、知りたくなどない。
己の感情など。

「毛利」

呼ぶな。声を聞かせるな。
頭の中に響き、浸透する。
来るな。寄るな。離れろ。

「毛利」
「貴様など知らぬっ」

肩に軽く触れてきた手を払うだけのつもりであった。
しかし、その勢いで振り向いてもしまった。
椅子に座っていた我は、長曾我部を見上げる形になり。
赤くなっていた顔を、その儘見られてしまった。

「毛利っ、アンタってヤツはっ」
「は、放せっ、長曾我部っ」

手首を握られたと同時に、腕を引かれ立ち上がってしまった。
そして、長曾我部の腕に力強く引き寄せられ。
我は、長曾我部の胸の中に抱き締められていた。
吸い込んでしまった、男の匂い。
身体の持つ熱。
生きている証の鼓動が、伝わってくる。

―――長曾我部…。

「会いたかった、俺は、アンタに…毛利」
「………」

耳へと、直接囁かれた言葉に。
我は覚悟を決め、長曾我部の背へと手を回した。
…我も、同じだ。
との、意味を込めて。
長曾我部へと伝わるようにと。

2013.09.05　　　　　　　　　　　　　　　　　　back