【切り取り線】 @


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見ないふり
聞いてないふり
無関心なふり
全部失敗しているのに
続けている自分がいる

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この時間は、算数の小テストに当てている。
教室の中は、当然静かである。
聞こえるのは、問いを解いていく筆記用具の音だが。
それだけではない。
校庭から聞こえる、体育の授業の子供達の声で。
今日は、ドッチボールようだ。
いつもよりも、はしゃぐ声が聞こえてくる。
但し、子供達だけでなく、もう一つ…教師自身の声も聞こえてくる。
低い声だというのに、無駄に大声であり、子供達と同じ様にはしゃぐ声が。

我は黒板前の教卓の椅子に座り、テストの監視中であった。
視線は子供達の方に向けていたが、耳は窓の外へと向いていた。
意識して声を聞いていた。
同じ小学校教諭である、長曾我部の声を。

長曾我部は、同年度に着任した、同僚だ。
受け持ちの学年が同じ五年生であり、我は三組、長曾我部は二組だ。
一番、距離の近い同僚であろう。
幸か不幸か。

何しろ、初対面の頃から慣れ慣れしかった。
親近感と言い放つ神経が信じられなかった。
面倒見が良く、爽やかと周囲の評価を得ているが。
我からしたら、胡散臭いでしかなかった。
それだと言うのに、何かに付け、親しげな態度を取ってくる。
同僚として最低限の受け答えはしていたが、それ以上に踏み込んでくる。

『なあ、毛利はナンでいつもそんな仏頂面なんだ?』
『生まれ付きぞ』
『なあ、笑ってみろよ』
『何故ぞ』
『笑った方が絶対にイイって、元がイイんだからさ』
『我は、戯言に聞く耳は持たぬ』

一々、気に障る事を平然と言ってくる。
その図々しさ、無神経さを我は疎ましいと思っていた。
それは変わる事の無い筈だった。
それがいつの間にか…。

否定を込めて、我は頭を一つ振った。
長曾我部の事など、思考の中から追い出す為に。
出来ぬと判っていても、せずにはいられなかった。
腹立たしい事に、我は考えてしまうのだ。
長曾我部の事を。
意識していようがいまいが、関係ない。
考えてしまっているのだ。
忌々しい事に。

何故だ。
何故、我は長曾我部の事を気にしているのだ。
何故なのかと、己を突き詰めると一つの結論に達した。

―――我は長曾我部に好いておる。

冗談でなかった。
唖然とした。
しかし、気付いてしまった事実は覆らなかった。
衝撃は大きかった。
己自身に打ち拉がれた。
あまりの馬鹿らしい事に。

成就など有り得ぬ。
誰にでも良い顔をする長曾我部が、我だけに向く事は決して無い。
恋愛感情など、疎い我でも判る。
無理だと。諦めるのが一番だと。
そう己を戒めていた。

それだと言うのに。
今の我は、長曾我部の存在を出来るだけでもと追っている。
姿を見るだけ。
声を聞くだけ。
それで満足しようとしていた。

欺瞞だと判ってはいるとおるのに。





2013.09.25
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瀬戸内:現パロ、2人とも小学校教諭です
BGMはボカロの【キリトリセン】です
某R様のお誕生日プレゼントのつもりでリクエストを頂いた話です
先ずは毛利先生の視点からv