【切り取り線】 H
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呼吸が苦しい
まるで息の仕方を忘れたかの様に
指先が動かせない
いきなりスイッチを切られた様に
何故こんな事になっているのだろうか
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頭が重い。
瞼が開かぬ。
動かねばと思う程、身体が軋む。
…苦しい。
我は、水中から顔を出した者の様に大きく息を吐いた。
「お、目ぇ覚めたか、毛利」
「…長曾我部?」
「ん、俺が判るんだな」
「…当たり前の、事を」
何を言っているのだと、顔を上げると。
思わぬ至近距離から、長曾我部が我を覗き込んでいた。
それに驚いた拍子に、全身に痛みが走る。
何なのだ、これは…。
「大丈夫か、いきなり動くからだぞ」
「我は一体…」
己の置かれている姿を確認する。
壁に凭れ座っている長曾我部の身体の上に、我は乗せられていた。
力の抜けた身体を腕の中に囲われていた。
温かい…。
体温が直接伝わってくる体勢だ。
我はゆっくりと、息を吐いた。
痛みを警戒しながら。
「気絶しちまってよ、焦ったわ、流石に」
「気を…失った?」
「まあな」
我は、気を失っていた。
そして、長曾我部が居る。
長曾我部に抱えられている。
この符号は…。
あっ。
一気に記憶が蘇ってきた。
あまりの勢いに、処理が追い着かぬ。
いや、出来ぬ。
「わ、我は…」
「いいから、落ち着けって」
「お、落ち着けるわけがっ」
「ムチャさせちまったからな、それは謝るわ」
謝って済む問題か。
我は長曾我部に…。
「大丈夫だって、チャンと責任取っから」
「責任などっ」
「取って欲しいんだろ、俺に、アンタは」
何だ。この押し付けがましい物言いは。
まるで、我にも責任がある事を断言しているようではないか。
全て、長曾我部の所為であろう事を。
「あんな目で見つめられ続けられちゃな」
「あんな…目?」
「ああ、見てるのに気付いてくれっていう、アンタの健気な目にな、絆されちまった」
「我は貴様など見て…」
「ナイなんて言わせねえよ」
グイッと乱暴に身体を引き寄せられる。
再び、走った痛みに、我は身体を強張らせる。
混乱が治まらぬ。
一体、何がどうなって、長曾我部がこのような言動をしているのか。
見当が付かぬ。
問い質す気も起きぬ。
痛みと疲労で…。
「も少しアンタが落ち着いたら、送ってくからよ」
返事をするのは億劫で、頷くのは癪である為。
我は長曾我部の胸元に凭れ、目を閉じた。
今は、全て後回しぞ。
今は、正常な判断が出来ぬ。
そう、己に我は言い聞かせた。
出ている答を引き延ばす為に。
2013.10.20 back
瀬戸内:現パロ、2人とも小学校教諭です
BGMはボカロの【キリトリセン】です
某R様のお誕生日プレゼントのつもりでリクエストを頂いた話です
毛利先生が、疲労困憊編ですv