【本当の気持ち】 D


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いつもは気にならない事が気になってしまう
心臓の音が耳に着く
息の仕方が上手く出来ない
指の動かし方が判らない
たった一人の相手に対する時だけに

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頭の中が真っ白になってしまった。
何も考えられぬ。
何をどうすれば良いのか。
何が我に起こっているのか。
道筋を立てられぬ。
理路整然と出来ぬ。
それら全て、我の手を握っている元親の所為だ。
それだけが、理解出来る。

「なあ、元就」

声が出ぬ。
返事が出来ぬ。

「無理に返事しなくていいからよ、俺の話聞いててくれ」

頷く事も出来ぬ。
首を横に振る事も出来ぬ。
そんな我に、元親は怒る事もせず。
いつも通りの笑顔を我に向けてくる。
年上の幼馴染みとしての、変わらぬ笑みを。

我は…。

一瞬、居たたまれず目をギュッと瞑ってしまった。
しかし、耳は元親の言葉を聞き逃すまいと。
しっかりと、澄ましていた。

「悪ぃ」

え? いきなりの謝罪の言葉に、我は思わず顔を上げた。
すると、そこには困り顔のな元親が居て。
そんな顔をさせてるのは、我自身なのだと理解して。
少しだけ、嬉しいと感じてしまった。
我ばかりが、困っているのではないのだと思えて。

「元就がさ、ナンか俺のコトで気に食わねえコトがあるのは判るんだけどよ。
 けどな、それがナンなのか具体的ってには正直判らねえ。
 アレコレ考えるコトは出来っけど、それが正解なのかは、やっぱ判らねえんだわ」

それは…そうであろう。
人の気持ちなど、本人以外に判るものではないのだから。
こんな…子供じみた、八つ当たりの様な気持ちなど。
知られたくない。
知って欲しくなどない。
きっと、呆れてしまうだろうから。
こんな、我になど。

「で、一番最悪なトコまで考えちまうんだわ、元就が俺のコト、大嫌いになったってな」

そんな事っ!
ある訳無い、天地をひっくり返そうで、そんな事がある訳ないというのに。
どうして、元親はそんな事を言うのか。
我は己への情けなさに、元親への悔しさに。
じわりと、涙が滲んできた。
泣きたくなどない。
泣いて済ましたくなどない。
涙など何の解決にもならない。

「元就?」

水の膜の先に見える元親の顔が、我を見ている。
ただ、それだけの事がこんなにも胸を苦しくさせる。
何をどうすれば良いのかの、糸口も見つからぬ。

ただ、我は、元親が…。
ただ、ずっと…。

我は握られていた手をその儘に、元親の方へと身体を傾けた。
バランスを崩すなど、些細な事は気にもならない。
ただ、今の己の気持ちだけで。
元親との距離を。
今の我の精一杯で縮めたのだった。

受け止めて欲しいと、願いながら。





2013.10.29
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瀬戸内:現パロ、大学生アニキと中学生ナリちゃんです
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今度はナリちゃんの奮闘記(笑)