【本当の気持ち】 F


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思っているだけでは
伝わらない
口にしなければ
伝わらない
それは判ってはいるのだけど

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狡い、と。
心底思ってしまう。
離れている事が苦しいのに。
近すぎる事もこんなに苦しい。
けれど、それが嫌なのではない。
嫌なのは、失ってしまう事だと判っているから。

辛いのではない。
悔しいのだ。
ほんの少し、歳が上というだけで。
ここまで我を翻弄する、元親に。
悔しさが募る。

口にせよ、と。
言葉にしてみせよ、と。
恥ずかしくて恥ずかしくて、出来れば避けたい事を。
我から、引きだそうとしている元親が。
我は好きなのだ。
拒めないのだ。
本当に狡い、と思う。

今の我の胸の中は、喜びで一杯だからだ。
元親の言葉で。

「ほら、元就、言ってみろって」
「………」
「この強情っ張り」

元親の笑い声が、至近距離から聞こえてくる。
顔が赤くなっているのが、熱い。
頭の中が、霞がかった様な感じになっている。
ドキドキと、心臓の音が響く。
いっそ、この儘、気を失って現実逃避をしてしまいたいと。
願ってしまった。

けれど。

「仕方ねえなあ、元就は。
 じゃあさ、チャンと言えたらナンでも1つ、元就の言うコト聞いてやるよ」
「………我の?」
「お、現金なヤツ。
 ああ、元就が頑張ったら褒美つーコトで1つな」
「………本気か?」
「マジだって。
 俺がウソ吐かねえのは、元就も知ってるだろ」

知っている。
からかう事はあっても、元親は肝心な時には決して嘘は吐かない。
目は笑っていても、笑い声を立てていても。
きちんと、真面目な事にはちゃかしたりしない。

元親の青い色の目が、我を真っ直ぐに見てきている。
幼い頃から、見てきていた元親の目の色。
海の色にも、空の色にも、通じていて。
我はとても好きなのだ。
今も…。
変わらずに。

コクリと喉が鳴る。
口の中がカラカラに乾いている。
それでも、望んでいる事を口にしたい。
その思いが、我を突き動かす。
だから、どうかどうか。
子供扱いだけはしないで欲しい。
ちゃんと対等に、我を見て欲しい。
その為ならば、一歩踏み出すのに躊躇いはもう無い。

「好きぞ、我は元親が」
「俺も元就が好きだぞ。よし、これで俺達、両思いな」

元親の顔が破顔する。
その顔を見た途端、何もかもが発火しそうな程に熱くなる。
その勢いを借りて、我は心よりの望みを口にしていた。

「我にキス、せよ」

…嗚呼、頭の中が沸騰して、我はもう何も考えられない。





2013.11.02
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