蒼穹の彼方ⅰ

蒼穹の彼方　ⅰ

『我は長曾我部元親の鑑なのだ』

この言葉をナリの口から聞いた時の高揚感を俺は忘れたコトがねえ。
相手は機械だ。無機質だ。
プログラムに乗っ取った行動を取るモノだ。
鑑が人型を取っている、ってしかねえ。
それなのに。
それなのに、だ。
俺は胸が騒いで仕方ねえ。
ナリを初めて、一目見た時から。
それは、ずっと変わらねえ。
今も、続いている。

俺を艦長として認めて、俺の目の前に姿を具現してきた時。
俺は目を奪われた。

『ウソだろ…』
『嘘とは何故の言葉か？』
『だって、アンタが鑑ってどーゆーコトだよ？』
『先程、説明した通りぞ』
『だからってハイそーですか、って納得出来っかよ』
『納得するしないは、其方の問題で有り、我の責任では無い。
　ただ、我は其方の鑑という事実は覆らぬ』
『…ウソだろ』

小柄で細身。
手も足も細い。
髪も細くサラサラしてた。
等身大のキレイなキレイな人形ってカンジだった。
ちょこん、としてんのに、俺を見上げてくる目は真っ直ぐで。
涼しげな目元が印象的で、見つめ返しちまった。
鋭角的な顎に柔らかなラインの頬。
薄い唇が開くのが、不思議なカンジもした。
自分のコトを『ナリ』と名乗って、俺が乗る鑑だと言ってきた。
理解なんか不能。
元々、そんな頭は良くねえんだ。
いっくらナリに理路整然に説明されようが。
このどでかい鑑がナリ自身だと言われてもピンとはこなかった。

『おいおい、理解していけば良い。
　どうやら、其方は頭でより経験で理解するタイプの様だ』
『ナンだよ、それ。バカにしてんのか』
『馬鹿になどしておらぬ。事実を述べただけだ』
『おいっ！　それがバカにしてるってゆーんだよっ』
『…そうなのか？』

こん時、心底不思議そうな顔したっけな。
それまで、淡々と話してたのがよ。
ナンつーか…ナンも知らなかったガキみたいな顔してよ。
それが、ナンとも言えねえ程、可愛くてよ。
考え込むナリに、つい。

『あ、だからよ、物の言い方ってモンがあんだよ』
『…そうか。では気を付ける努力をしよう。
　それで良いか？』
『ん、そーしてくれっか』
『了解した』

今でも断言出来っけど、こん時、ナリは確かに嬉しそうに笑ったんだ。
絶対に見間違えなんかじゃねえ。
自分には感情表現というプログラムは組まれてねえ、て。
今もナリは言うけどよ。
確かに、組まれたプログラムの中に。
人間の感情なんか入り込む隙なんかねえ筈だけどよ。
そんでも、俺は俺が見たモンを信じてるし。
間違えたモンじゃねえって思ってんだわ。

『何故、その様に事に拘るのか、我は理解が出来ぬ』

俺もな、判らねえコトだらけだからよ。
ナリの問いに、ナリが納得する答なんか出してやれねえ。
けどな、これだけは言える。

「ナリは俺の鑑だ」

って、自信持って言ってやれる。
耳に囁いてやりながら。
俺の腕に。
しっかりと、抱き締めてやりながら。
理解じゃねえ。
ただ知ってくれればイイって、願いながら。

2014.3.21 up　　　　　　　　　　　　　　　　　　back