蒼穹の彼方ⅱ

蒼穹の彼方　ⅱ

『ああ、お前は俺の鑑だ』

システムが立ち上がり、我の認識する映像の中に。
一番初めに映ったのは、我の艦長だと名乗る男だった。
即座に身体的データを取り、我のシステムの中へと登録をした。
認識をする為に、必要事項だったからだ。
それを。
長曾我部は、先ず『元親』と呼ぶように指示してきた。
勿論、異論は無い。
データを上書きするだけで良い。
そして、それが完了すると次の指示がされた。
出来うる限り人型の姿で、艦長に随行する様にと。
それは必要事項なのかと、問うと。

『必要とか不必要とかじゃなくてよ。
　俺がナリと居たいってだけなんだけどよ』

人には感情という物がある。
我には、当然無い。
なので、元親から提示された内容を実行するのには構わない。
命令ならば従うのみ、だ。
しかし、元親は違うと主張する。
そうではない、と。
命令ではない、と。

『言っただろ？　俺がナリと居たいだけだって。
　命令じゃねえ。懇願だ』

懇願――ひたすら願う事、とある。
何を願う必要があるのか。
艦長が鑑へとする事は指示と命令なのだ。
それ意外、何があるというのか。

『うん、だからな…あー、ナンて言ったらいいんだ…』

我を見る元親を見ると、眉間に皺を寄せている。
この表情は、困惑という感情の部類に入るのだろう。
発する言葉を吟味しているのか、沈黙が続く。
元親は自身の髪に掌で触れ、髪を掻いている。

銀の色の、髪を。
乱暴と言える、勢いで。

指示が出るまでは、待機なので。
元親の動きを視覚で追っていた。
成人男性の平均値を超える身体であり、運動能力も高い。
色彩が髪は銀、眸が青。
データより検索すると。
髪は波間に浮かぶ泡の色に、眸は晴天の海上の色に酷似していた。
それが何故か…。

『ナリ、小難しいコトはよ、俺、苦手なんだわ』

別にそれは構わぬ。
指揮系統が的確であれば、何の問題も無い。

『ナリが感情ってモンを理解…、ん～知らなくてもいいか、ってな』

随分とアバウトなものなのだな。
明確さが足りなくても良いのだろうか。
これが判断ミス等に繋がる危険性が皆無とは言えぬ。
シミュレーションは出来るが。
実際に怒りうった時の対応に、蓄積されているデータは必要だ。
その中から一番良い物で対応し、回避するのだ。
それが、唯一の我のするべき事であろう。
不確定要素を可能な限り、除去する。
それこそが。

『ま、だから追々な。これからってコトでよ』

そう言い、笑いながら元親は我へと腕を伸ばした。
両手が我の腕を掴み、引き寄せられた。

『大事にすっからよ、ずっと俺の傍にいてくれ』

肯定の音声を口にすれば良いだけだったのだが。
我はただ頷く事で了承の意志を。
元親へと伝えていた。

2014.3.23 up　　　　　　　　　　　　　　　　　　back