君の知らない物語


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気が付かなければ良かった…

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「これから星、見に行こうぜ」


それは、本当に偶然だった。
部活を終えた長曾我部、伊達、前田、真田、猿飛の一行と。
生徒会の会議が終わった我と竹中が、昇降口で顔を合わせ。
その場の流れで、一緒に帰る事となった。

7月の、暗さと明るさが微妙な、夕暮れの元。
身長差のバラバラな、高校生の一団がザワザワと歩いて行く。

ゆっくりと空が濃い色へと染まっていき。
それを見上げた、長曾我部が一言提案をした。
それに対し、周りは口々に賛成の意を唱えた。

「お前にしちゃイイ事言うじゃねぇか」
「俺もチカちゃんに賛成〜」
「某も行きたいでござる」
「了解、俺様も行くよ」
「ん〜あまり賛成出来る事ではないけど、いいんじゃないかな」
「毛利も行くよな」

不意に名指しで、長曾我部が同意を求めてきた。
何故かその時、その笑みに面食らったのか。

「ああ、行っても良い」

すらりと、返事をしていた。
じゃ、コンビニ寄って何か食いモン買ってこうぜ、と。
毛利、甘いモン好きだろ、と。
言われた事に、どきりとした。

中学からの腐れ縁。
遣る事為す事、対比の位置に居るというのに。
何故か、一定の距離を保った相手だった。
どんな関係の括りなのか、言葉では上手く現せない。
よく、他人から不思議がられるが、自身で判らないものは説明出来ぬ。

ただ…。
長曾我部のお節介なまでの世話好き、人懐こさが要因ではないかと。
我には出来る事ではないが。
他人との関わり合いは、表に出さないが苦手だ。
けれど、奴は違う。
周りにはいつも誰かしらが居る。笑っている。

それが、何故、我に声を掛けるのか。
未だ、判らない。問い質す気も無い。
だから、その儘で続いている。
それだけだ…と、思っている。


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「あれが、デネブだろ…んで、こっちがアルタイル、ベガ…だよな」
「本当かあ」
「合ってる合ってるって」
「星にも名前があるのでござるな」
「…ん、あるんだよね」
「今更だけどね、夏の大三角だよ」

穴場だと言われ、付いていった場所は。
小高い場所にある寂れた公園で。
そこで、思い思いの所に座り、夜空を見上げた。
すっかりと、墨を流した色となっており。
そこに、星が自己主張する様に瞬いていた。

こんな風に、星を見るなど…久しぶりだ。
いつから、空を見上げる事をしていなかったか。
素直に、綺麗だと思える。
降る様な星空、そう思えた。

「毛利」

名前を呼ばれ、顔を上から横へと向けると。
長曾我部がこちらへ歩いて来るところだった。

「アイス、食うだろ、溶けちまうぞ」
「ああ、食べる」

長曾我部は我にアイスを手渡し、隣へと座った。
自分用のペットボトルを片手に。

「毎日、アッチーな」
「そうだな」
「元気か」
「見ての通りだ」
「お前、暑さに弱いんだからさ、気を付けろよ」
「貴様もだろうが」
「あー、昔の事だろ、それ」

たわいない会話。
時折、涼く夏の夜風と同じに心地良いと、感じる。
不思議で仕方ないというのに、甘受する己がいる。
この感情に、理由があるのだろうか。

「長曾我部」
「何だ?」
「いや……何でも無い」
「何だよ、言いたい事あるなら言えよ」
「無い」
「んじゃ、言いたくなったら言えよ、いつでも聞いてやっから」

何度も何度も、見てきた筈の長曾我部の笑顔は。
我以外にも向けるというのに、こうして。
我にだけしか見せない笑みを向けてくる。

…落ち着かなくなる。

「毛利、あのさ」
「何だ」
「又、こうして今度どっか出掛けようぜ」
「…え?」
「最近、お互い忙しくってさ、どこも行ってないじゃん」
「何故…」
「何故って、そんな一緒に出掛けたいからだろ、毛利は嫌なのか」
「嫌…では無い」
「だったら、夏休み入ったら直ぐに行こうぜ、遊びに」

満面の満足そうな、長曾我部の顔から目が離せなくなった。
ああ…そうか。
我は此奴の事が。
気付いてしまえば、こんなにも簡単な事なのだな。

口を開き掛け、我は言葉と一緒に口を閉じた。
伝えて、どうなるものでもない。
だったら、飲み込んでしまえば…いい。
伝えて、この心地良さを消してしまいたくない。


広がっていく、今気付いたばかりの感情を押し込める。
きっと、これからは浮き上がってきては、我を困惑させるに違いない。
けれど、何度でも沈める。
受け入れられる筈が無い、のだから。


「貴様が誘ったのだ、奢るのだぞ」
「えー、何だよ、それ」

軽口に混ぜて、今ならと我も笑みを長曾我部に向ける事が出来た。
これで、良い。
これ以上は、望まない。
そう強く決心し、我はもう一度、星空を見上げた。





2010.07.07
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