初めての恋が


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はじめて好きになった人との
はじめてのキスは
涙の
味が…する

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自分は妹のような、存在だと思っていた。
そう思い込むようにしていた。
そうでないと、気持ちが惹かれてどうしようもなかった。

初めて会ったのは、忘れ物の携帯を届けた時で。
背の高さに驚いた。そして、感謝を口にする笑顔にも。

それから、お礼をしたいと言われ。
遠慮から断ったのだが、何度も何度も誘われ。
その強引さに面食らってしまったが、不思議と嫌ではなかった。
逆に、誠実なのだと知った。

そこから、始まったのだと思う。
ただ、男女の交際では無い…。
兄と妹のようなものだと、思う。
男ばかりの兄弟だと、聞いた時にそう思った。

自分の事は、元親と呼んでくれと、言われた。
年上の人を呼び捨てには出来ないと断ったが。
俺も元就と呼びたいから、それでおあいこでいいだろう、と言われた。
妙な説得力で、ぎこちなくも名前で呼ぶようになり。
互いの都合の良い時に、会うようになり。
それが、楽しいと。
会えるのが、嬉しいと感じて。
我は自覚した。

【好き】なのだと、我は元親を。

決して、口には出来ない。
それで良いと、口にする勇気がない事を誤魔化し続けた。
言ったら、終わりだとそう決めていた。
終わりを先延ばしにする為に、我は口を噤んだ。


元親は、大きな人だと、思う。
姿形だけでなく、考え方とか接し方も。
基本が優しいのだろう。他人に対して。

だから…。
子供の我にも、誠実に子供扱いする事なく、一人の人間として扱ってくれたのだろう。
だから…。
疑似の妹で良かったのだ。
傍に居られる事が出来るのなら。
それ以上を望む気持ちを我はずっと諌めていた。

けれど、何事にも終わりはある。
元親から告げられた、実家に戻る話に。
我は、そうか…と、頷いた。それだけしか、出来なかった。
何の権利も無い。引き止める事も、どんなに悲しくとも。
我がしていい事ではない。

我が出来る事は。
妹として、元親を見送る事。
笑って、安心させて。
ありがとう、と感謝を。
さようなら、と決別を。

心に決めた事を実行する日を。
余計な事を考えずに、我は待とうと思った。

元親が実家に帰る日を。


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無理を言った。
最後だから、見送りたいと。
困った顔をしたが、元親は了承してくれた。

駅のホーム。
先程まで、色々と話し掛けてくれた元親も口を噤んだ。
もうすぐ、列車が来る…時間だ。

「元就、元気でな」

差し出された手に、逡巡してから、我も手を差し出した。
大きな、温かい手。
もうすぐ、離さないといけない。
伝えようと決めていた言葉が、喉からつかえて出てこない。

怖い…。
怖い…。
怖い…。

判っていた筈の事だと言うのに、この手を離したら。
元親は行ってしまう。判っている。判っていた。
だから、せめてこの気持ちを今。

「元親…」
『好き』

声が掠れて、名前しか呼べなかった。
唇だけが、言葉を象った。

「俺もだ、元就」

握っていた手を離され、その代わり、身体を引かれて抱き締められた。

「お前を縛りそうで、怖くて言えなかった、待っていてくれって」

耳元に囁かれる、低い声が滲みてくる。

「今、一時だけ離れるけど、俺はお前のトコに戻ってくる、迎えに来る」

コクンと、強く頷いた。

「好きだ、元就、俺はお前が」

勇気を出して見上げると、元親が嬉しそうに笑っていた。
それを見て、我も笑った。嬉しかったから、本当に。

もう、言葉はいらなかった。
軽く触れた唇。
ギュッと、抱き締められた身体。
元親の気持ち。
それらが、我を包み込む。
大丈夫だ、絶対に。この気持ちがあれば。


発車のベルが鳴る。
泣き笑いの顔で、見送る。
元親も同じような顔だった。

けれど、終わりではなく始まりだ、と。
判ったから。

列車のドアが閉まる。
走り出し、徐々にスピードを上げていく。
行ってしまった列車に、クルリと背を向け。
我は、歩き出した。

次に。
元親に会う日までに。
我は、一歩を踏み出した。





2010.07.14
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リーマン元親×女子高生元就 元就視点
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