ワールドイズマイン・A


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心得その1
我が侭って言えなくなるくらい甘やかしてやる

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あまりにも懐きが悪いので、引き取り手が全く無かった仔猫を。
長曾我部元親は友人の前田慶次に泣きつかれて、飼う事になりました。
但し、その猫と言うのは今流行の人猫で、仔猫だが人の子供の大きさがある。

慶次に連れられて来た仔猫の大きさは、5歳児の子供と同じくらいでした。
生後半年とは、聞いていたけれど、大きいのか小さいのか…。
元親には判別はつきませんでした。


「ほら、元就、ご挨拶しなくっちゃ、ねっ」

慶次の後ろから、なかなか出て来ず、見定めるように元親を。
元就と呼ばれた仔猫は、睨み付けていました。

「今日から元就を飼ってくれる元親だよ」

そう言って、慶次が元親の前に出そうとするのですが。
元就は慶次の足にしがみついて、出ようとしません。

「大丈夫だよ、元親は優しいから心配する事は何も無いよ、
 いくらでも甘えていいんだよ」
「おいおい、慶次」

際限の無い事を言いそうな友人を元親は苦笑いで止めました。

「いくら何でも躾はするぞ」
「いいから、甘やかしてやってよ、元就、可愛いでしょ」
「そりゃあ、可愛いが…」

元親は視線を下に、元就へ落としました。
黒の毛並みがつやつやさらさらしていて、猫耳もピンとしてて、内側がピンク色。
仔猫だというのに整った容貌が、将来の美貌を約束しているような顔で。
手も足も細く、すんなりと伸びています。
この外見だったら、引く手数多の筈が…なのですが、慶次から聞いた話では。
かなり、気の強い性格で、愛想を産まれる時どっかに忘れてきたのだろうと。
何しろ、飼い主候補達に頭一つ撫でさせず、威嚇する一方だと。

そんな仔猫だからこそ、慶次が見捨てられる訳もなく飼おうとしたのですが。
慶次のトコの先人、既に飼われている人猫・半兵衛と折り合いが悪く断念したのでした。

その経緯を元親は聞いていましたので。
一応心構えをして、それなりの覚悟をしてきたらば。
想像以上の手強そうな仔猫との対面と相成った訳です。

さて、どうしたものかと元親は考え始めました。
飼う気はあります。ただ、このままじゃすんなりといかないのは判り切っています。
最初が肝心。躾の一環でもあります。
主導権は、飼い主の自分が握っているべきだと。

それに、相手は何といってもまだ仔猫。
気が強いのはプライドが高いという事。
自尊心を尊重してやりながら、コントロールしてやれば良い。

「元親〜、マジ頼むよ」
「判ったから、慶次は少し黙ってろ」

慶次の泣き言を一喝して、元親は元就の高さに合わせてしゃがみ込みました。
ビクッと元就の身体が、強張りました。

「よっ、俺は元親だ、お前の名前は?」
「……………」
「自己紹介は自分でする方がいいだろ」
「元就、だ」
「元就か、イイ名前だな」

真っ直ぐに、元親は元就を見ながら笑顔を見せました。
警戒心を解く、ストレートな笑顔で。

「それでな、今日、俺は元就にお願いがあって来たんだ」
「…お願い、だと?」
「俺と一緒に暮らして欲しいんだ」

飼うではなく、元就をひとつの存在として、元親は接しました。

「我、とか?」
「そうだ、一緒に協力して、暮らしていくんだ、楽しいぞ」
「…楽しい」
「ああ、楽しいに決まってるさ」
「先の事など判らない」
「判らないから楽しみにするんだよ」

元就の小さな声をひとつひとつ拾って、元親は根気良く答えていきます。
その真摯な態度に、少しずつ元就の顔が上がり、元親を捉え始めました。

「俺は元就と暮らしたい、元就はどうだ?」
「我は…」
「俺の事はどうだ? 嫌か?」
「判らない…けど、嫌ではないと…思う」
「一遍に判らなくてもいいさ、嫌じゃないなら上等だ」
「……………」

元就の逡巡を元親は一呼吸置いてから、両腕を広げました。

「おいで、元就、俺んトコに」

ぎゅっと掴まっていた慶次の足から、元就が一歩踏み出すと。
その小さな身体を攫って、元親は抱き上げました。

「宜しくな、元就」

元親の突拍子ない行動に、目を白黒させた元就でしたが。
どうやら、肝は座っているらしいです。
抱き上げられた為に元親を見下ろす態勢から、元就はニコッと笑いました。
その初めての笑顔に、元親が見取れている間に。
小さな掌が元親の頬に当てられ、小さな顔が近付いてきて。
ペロッと唇が舐められました。

「も、元就?」
「我からの宜しくの挨拶だ」
「そうか、じゃ、俺からもお返しの挨拶な」

チュッと可愛らしい音で、元親は元就の唇に触れました。
それを眺めていた慶次が、盛大に笑い始めます。

「良かった良かった、これで一安心だ、元親も元就も仲良くね、
 宜しく頼むよ、元親」
「ああ、任せろ」
「元就、一杯可愛がって貰うんだよ、元親に」
「…別に可愛がって貰わなくても良い」
「お前なあ、覚悟しとけ、目一杯可愛がってやる」
「結構だっ」
「いいからいいから、任せとけって」

元親と元就の余裕対キャンキャンな掛け合いに。
慶次はニコニコと笑って胸を撫で下ろしていました。
これから起こるであろう事は、神に祈っておく事にして。





2010.08.11
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飼い主元親×仔猫元就
飼い主に恋する甘えん坊の甘ったれの仔猫話(step A)