orange 〔10〕


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見失ってしまった
見えていたと思った事自体が勘違いなのか
それとも元々見えていなかったのか
困惑ばかりが広がってゆく

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「えっ、毛利さん早退しちゃったの?」
「らしいんだ。今、メールで確かめてる」

昼休みに、俺は毛利の教室にすっ飛んで行った。
昼飯を一緒にもあっけど、朝の事を直接謝りたかったし、何より毛利の顔が見たかった。
まだ、今日は見てねえんだからさ。
それが、具合が悪くなって早退したって聞かされてよ。
一気に血の気が引いた。

昨日の俺とのデートが原因か?
俺なりに気を付けてはいたつもりだったんだけど。
毛利からしたら引っ張り回されて疲れて学校来て体調崩したとか?
考えれば考える程、背中を冷や汗が流れてく…。

「どう? メールの返事きた?」
「………ねえ」
「あ、お家に着いてもう寝てるのかもね」
「………ん」
「大丈夫だよ、毛利さんしっかりしてそうだし」
「………ん」

確かに、毛利は一人でも大丈夫ってカンジがする。
けど、それは一人でも出来るようにってしてっからなんだよな。
両親いなくて、だから昨日会った兄さんのコト心配させたくなくてさ。
そーやって、頑張ってんだよ、毛利は。

それが具合悪くして、一人で家帰って、一人で自分の面倒みて。
一人で部屋で寝てる…ってか。
そんなん寂し過ぎるだろ。
それじゃなくたって、病気ん時って気が弱くなんだからよ。
誰か傍にいて欲しくなるじゃねえか。

「あっ、返事きた」
「ホント?」
「…【大丈夫だ、心配無い】…」
「そんだけ?」
「…ああ」
「でも良かったじゃない、返事をくれたって事はそんなに心配要らないって事だろうし」
「…ん、そーなんだろうけどな」
「ありゃ、それでも心配?」
「お前、過保護過ぎ」
「仕方ねえだろ、心配なんだからよ」

もう一回、メールをしとこうか悩む。
大丈夫だって言ってんのに、しつこくすんのもアレだしなあ。
律儀だから、返信くれようとするだろうし。
寝てるのを邪魔すんのもなあ。

俺は携帯を閉めて、シャツの胸ポケに入れる。
ホントは今すぐにでも、顔見に、見舞いに行きてえけど。
出来ねえなあ。
気遣わせちまう。
けど、心配だし…。
授業終わったら、行ってもいいよな。そんだったら、毛利も。

そう決めた俺の頭ん中は、その後も毛利一色になってた。


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指先が震える。
数回深呼吸をして、やっと押すと。
家の中から応対に出てくれたのは、聞いていたハウスキーパーさんだった。

はあ…。
同じ学校で、見舞いに来たって言ったら、家に上げてくれた。
今はリビングのソファに座って、お茶出して貰って、待たされてる。
毛利の様子を見てくるから、って。

一応、ココに来る前にメールはしたけど、返事は無かった。
おかげで、呼び鈴を押す指先が緊張して緊張して。
なかなか押せなかった。
迷惑になっちまわねえか、迷惑だよなとか色々考えちまって。
そんでも心配の方が勝って、毛利んちに押し掛けちまって。

俺って、考えナシ…か?
政宗によく言われてるもんなあ…。
はあ…落ち込んできた。


「――あの」
「あっ、はい!」
「済みません、元就さんはよく眠っているようで」
「あ、いいです。起こしたら悪いし、俺帰りますから」
「そうですか、わざわざ来て頂いたのに申し訳ありません」
「俺が勝手に来たんで、コッチこそスミマセン。あのお大事にって」
「はい、伝えておきますね」

ホントのホントは、寝顔だけでも見ておきたかった。
そうすりゃ、少しだけでも安心出来るだろうから。
けど、それは俺の方の都合で、眠ってるトコを勝手に見ちゃうなんて出来ねえ。

「じゃ、お邪魔しました」
「はい、気を付けてお帰り下さい」

深くお辞儀して、俺は後ろ髪を思いっ切り引っ張られながら。
毛利んちから帰った。
早く良くなるように、それを一番に念じて。
俺はトボトボと自分ちに帰った。

無理はしねえで欲しい。
早く元気になってくれ。
明日、朝。
元気になった毛利の顔が見られるようにと。
俺は祈って、この夜は早く寝た。





2011.05.18
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