orange 〔11〕


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確かな物など無い
あると思い込みたい気持ちだけ
けれど
その気持ちさえも重くなる

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結局、あれから2日間、学校を休んだ。
熱がなかなか下がらなかった為に。

『でも偶には良いのかもね、こんな事でもないと元就はゆっくり休まないだろから』

そう、笑って慰めてくれたが。
兄上に多大な心配を掛けてしまったのが心苦しかった。
だから、熱の下がった今、気をしっかり持たなくては。
もう身体は大丈夫だ。
きちんと、学校に行かなくては。

ただ。
問題が一つ。
学校を休んだ事で先送りにしていた事をどうするか、だ。
まだ答を出していなかった。
我らしくもなく。

休んでいる間、届いた長曾我部からのメールへの返事を。
一つだけ、まだ返していなかった。
体調を心配してくるメールには、心配ないと返した。
だから、それは良い。
返していないのは、治って登校する時は教えて欲しいとのメールに。
我は返信をしていない。
どう返事をすれば良いのか、文面が打てない。

あの時に聞いてしまった言葉が、棘の様に残っている。
チクリとした痛みと共に。

【付き合う】の意味を我は把握が出来ていなかった。
それでも、長曾我部が接してきてくれる事には戸惑いながらも。
嬉しいのだと、思い始めていた。
我自身、自覚しているが扱い難い筈だ。
それを根気良く長曾我部は、付き合ってきてくれていたと思う。

考えたくはなかったが、頭にはあった。
他意は無い。悪意も無い。
ただ、枠から外れている者を放っておけない者がいる。
それが長曾我部で、我だったという事だけなのだ、と。
人の輪の中、仲間の中に入れようと、手を尽くす。
親切という言葉を以て。

悪い事など一つも無い。
親切心だ。
好意からだ。
長曾我部は何も悪い事などしておらぬ。

我は己の期待に、外れただけなのだろう。
そう、なのだ。
だから、返事をしなくてはいけない。


登校の準備は出来ている。
後は、長曾我部にメールをすれば良い。
携帯を取り出し、画面を開いた。


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授業中なのだ、集中しなくては。
落ち着かぬが、平常を保つ努力をしなくては。

結局、我は長曾我部にメールをしていない。
あの後、携帯を手から滑らせ、階段の上から落としてしまった。
打ち所が悪かったらしく、携帯は壊れてしまった。
使用出来なくなっていた。
長曾我部に連絡をする事は出来なくなった。

言い訳だと、こじつけだと判っている。
そして、理由が出来た事に安堵もしていた。
連絡が出来ないのだから、仕方が無い、と。
朝の待ち合わせが出来なくても、仕方が無いのだ、と。

クラスが違う事。
校舎が離れている事。
我は全てを理由にした。
長曾我部と会わないで済む理由に。

そうなのだ。
我は長曾我部に会いたくない。
会っても、言う言葉が無い。
【付き合う】の意味を今更聞く気も無い。
この儘、距離を作り、以前に戻る方が良い。

お節介など、欲しくない。
要らない、のだ。


この日、授業が終わると我は長曾我部に会わぬ様、細心の注意を払って。
即座に、帰途に着いた。


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家に帰り、自室に入る。
やっと一人になれた事に大きな安堵を得たのと。
長曾我部の目を気にしていた己の情け無さに、肩が落ちた。
いつまで、我はこんな事を続ける気なのだ、と。
唇を強く噛んだ。

ふと、机の上の携帯が目に入る。
持つ気がなくなり、朝、壊れたその儘に置いてきたのだ。
それを手に取り、開くと液晶に大きく罅が入っていた。
もう元には戻らぬ。
壊れたのだから、当然なのだ。
そう、今の我と同じなのだ。

自重の笑みと共に、我は携帯を閉じ、机の引き出しへと仕舞い込んだ。
ざわつく気持ちも、全て抑え込む為にと。





2011.06.26
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