orange 〔5〕


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胸の中が落ち着かない
理由は判っているけれど
それを認めるのに躊躇ってしまう
そんな自分にも落ち着かない

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携帯というものは、単なる通信用の器機であり。
それ以上でも以下でもない。
伝達が出来れば、充分な物だ。

それに。
我が持つこの携帯は、兄が連絡用にと購入してくれた物で。
兄としか使った事がない。

それが。
もう一人――長曾我部からのメールの着信に。
我は驚いていた。
確かに、アドレスは交換した。長曾我部に言われて。
別にアドレスを教える事に、異論はなかったので教えたのだ。
それだけだ。

なのに。
送られてきた事に驚き、驚いた己に落ち着かなくなった。
それでも、そのメールの内容文を我は読み返していた。
先程から、何度も。
おかげで、すっかり覚えてしまった。

明日の…朝、か。
返事をしておいた方が良いのだろう。
こうしてメールを読んだのだから、気付かなかったとはならない。
なので、一文『了解した』と打ち、送信した。


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あれから、直ぐにメールの返信が返ってきた。
待ち合わせの場所と時間と騒がしい絵文字と共に。
けれど、それが長曾我部らしいと思った。
まだ、奴の人と為りは知らぬというのに。
何故か、そう思ってしまった。

…不思議だ。


「毛利っ!」

朝の通勤通学の雑踏の中。
人で溢れてくる駅の改札で、我は約束した時間通りに長曾我部を待っていた。
そこに、頭の飛び出た長身の男が手を高く振りながら近付いて来た。

「…おっ、おはよー」
「おはよう」
「ゴメン、俺遅れた?」
「いや、我が早く着いていただけだ」
「じゃ、待たせてゴメン」
「謝る必要は無い」

息急ききって、長曾我部は我の前に立った。
時間前であり、遅れて来た訳ではないのだから。
そんなに恐縮しなくても良いだろうに。

ふと、長曾我部の顔を見ると汗を掻いていた。
自然とハンカチを差し出していた。

「汗を拭け」
「あ、サンキュ」

嬉しそうに受け取った長曾我部は、汗を拭く。
その仕草を我は目で追った。
長い指だと、思った。

「洗濯して返すな」
「別に構わないが」
「明日返すよ」
「判った」

何が嬉しいのだろう。長曾我部の顔はずっと機嫌の良い儘だ。
だが、その顔は見ていると、気持ちが弛む。
和らぐ気がし、可笑しい訳ではないが我は釣られて笑んでいた。


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昼食を一緒に食べよう、と誘われた。
駅から学校までは、徒歩で10分程だ。
その間に、長曾我部は色々と話し掛けてきていた。
その中で、昼休みはどうしてるのかと聞かれ、特に何もしていないと答えると。
それならばと、誘われた。
意味が判らず、それに対し無言でいたら、今度は付き合っているのだから、一緒にするんだと言われた。
その時はそうなのか、と承諾したのだが。
まさか、教室まで迎えに来るとは思わなかった。

これも付き合いに付属するものなのだろうか。
取り敢えず、促される儘に屋上で昼食を食べる事になった。


「天気イイなあ」
「予報では晴だった」
「天気イイと気分イイよな」
「考えた事が無い」

二人しかいない場では、ひとつひとつ返答しなければならない。
多少の面倒も有り、素っ気なく返しているのだが。
長曾我部は、あまり気にしていないようだった。
タイミングを計りながら、会話を続けていく。
他人との距離の取り方が上手いのだろう。

「あ、あのさ、毛利」
「何だ」
「今度の日曜って空いてっか?」
「家に居るつもりだが」
「あ、じゃあさ、良かったらさ、出掛けないか、俺と」
「………」

意図が計れぬ。我は口を噤んでしまった。
しかし、長曾我部を見ると返事を待っているのが見て取れた。
何かしらの用事がある訳ではない。
なら、出掛けても良いかと我は言葉ではなく、首を縦に振って了承した。





2011.02.04
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