orange 〔7〕


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気付かされる
何気ない事をひとつひとつ
そうやって新しく知る事で
何も知ろうとしないでいた己に
気付かされるのだ

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椅子に座り、ほっと一息を付くと。
目の前に座った長曾我部が、我を見ていた。
嬉しそうに。

「疲れたか?」
「大丈夫だ」
「んー、けど無理しないでな」

言い切ったというのに、長曾我部は更に言葉を繋いでくる。
我と会話をしてくる。
今までは、話し掛けてくる者はいても話が続く事はなかった。
我が必要としていなかった為だ。

「何、食う?」

渡されたメニューから一品、即座に選ぶ。

「一個でいいのか?」
「良い」
「奢るからさ、もっと頼んでもいいんだぞ?」
「そんな訳にはいかぬ」
「じゃあさ、初デート記念で奢らせてくれよ?」

申し出の意図が掴めぬ。
だが…。

「長曾我部は、それで良いのか?」
「勿論」
「では、この苺のを」
「了解」

店の者を呼び、長曾我部は注文を手早く済ませる。
慣れているのだな。
その様子を何気なく見ていると、長曾我部がこちらへと顔を向けてきた。

「甘いモン、好きなんだなあ」
「…悪いか?」
「違うって、毛利のコト知れて嬉しいんだって」

知る、我の事を。
それがどうしたら、嬉しいとなるのだろうか。

「ん? 俺、ナンか変なコト言ったか?」
「いや、何故と思っただけだ」
「何がだ?」
「我の事を知ってどうするのだ?」

疑問が口から、すらりと出てきた。
我にすると、滅多に無い事だ。
我自身も驚いていた、内心では。

「んー、どうこうスルつもりはねえよ。たださ、毛利のコトもっと知りたいんだよ」
「どうしてだ?」
「付き合ってんだから、それって普通だろ?」

そういうものなのか。
付き合うの定義の一つと認識して良いのだろうか。

「毛利もさ、俺に聞きたいコトあったら聞いてくれな」
「無い」
「えーっ、ねえのかよ。
 ん〜、いーや、じゃあさ、聞きたくなったらいつでも聞くから、聞いてくれよな」

怯むという事は無いのだろうか、長曾我部には。
誰もが我の返事一つで、それ以上を聞いてくる事はなかった。
その誰とも、長曾我部は当て嵌まらない。

――どうして…なのだろうか?

これが、長曾我部に聞きたい事なのだろうか、我が。


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両親は健在。弟が一人いる。
文系は苦手、理系が得意。
手先が器用で、機械いじりが趣味。
工学方面に進学予定。
食べ物の好き嫌いは無し。
大抵の物は食べられる。
ゲテモノは試した事がないから判らない。
ゲームはアクション物が得意。
RPGは途中で飽きる事がある。
友人諸氏は、同学年先輩後輩、遡ると小学・中学時代からのまでいるらしい。

以上が、長曾我部から一方的に話された長曾我部自身の事柄だ。
聞かずとも…いや、問う暇もなく話された。
我は元より他人事には興味が無い。
だから、聞きたい事も無い。
長曾我部は聞きたがるが…。

だから、余計に判らなくなる。
長曾我部と付き合うという事の意味が。

ただ、楽しいと思ったのだ。
休日に誘われ、2人で出掛け、甘味を奢られる。
今まで経験した事がない為だからか。
長曾我部と一緒だからなのか。
明確な回答が、出せぬ。
ただ、楽しんでいたのだけは認めぬわけにはいかぬ。

長曾我部が我へと向ける笑みに、我は確かに笑って返したのだから。
それから。
長曾我部の事をもう少し知ってみたいと、思った己に気付いてしまっていた。
その為。
深く考える事はせずに、口から出た質問を長曾我部に我はしていた。

「珈琲と紅茶、どちらが好みだ? 長曾我部は」





2011.04.15
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元親×元就、学園パロ、青い春な話
元就視点、初デートを戸惑いつつ楽しみだした模様(笑)