orange 〔8〕
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有頂天
言葉の意味は知ってて
体験もした事はあっても
この時以上の事なんて
人生で初めてでどうしたらいいのだろう
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楽しい時間ってのは、ホント早く過ぎる。
判っちゃいても、時間が止まらねえかってマジ思っちまう。
もっと一緒にいてえって、のが本音だけど。
毛利が帰るって言ったら、引き止められねえよなあ。
けど、6時ってのは早いよなあ。
「長曾我部」
「あ、ナニナニ?」
「我は良いのだぞ、反対方向なのであろう?」
「平気だって、それにさ、俺が送って行きたいんだって」
「大変ではないか?」
「全然」
隣を歩く毛利の顔が上げられ、心配そうにしてくる。
俺はそれに首を大きく横に振って答えた。
だってさ、ホントにさ。
どんな理由をこじつけたって、毛利の傍にいてえんだ。
一分でも一秒でも、多く。
「毛利は迷惑?」
「いや、そうではない。申し訳ない気がする」
「毛利が迷惑じゃないならいいんだよ。それに俺がしたくてしてるワケだし」
「そうなのか?」
「うん、そう」
不思議そうな顔で、きょとんとしてくる。
あー、ヤバい。こんな顔されたらヤバい。
帰したくなくなる。帰したくねえなあ。
腕掴んで、引っ張って。
思いっ切り、抱き締めて。
帰さなかったら…ヤバいよな。
「長曾我部、着いた」
「…あ、ココが毛利んち?」
「そうだ」
あーあ、とうとう着いちまった。
今日の楽しい時間の終わりかあ。
俺は思わず溜息をしそうになったが、毛利が真向かいから俺を見上げているのに気付いて、慌ててそれを飲み込んだ。
「どうした?」
「感謝している」
「え?」
「今日は楽しかった。その事に我は感謝しているのだ、長曾我部」
「ホントに?」
「我は嘘は言わぬ」
少し拗ねた感じの言い方。
ぷいっ、と視線を逸らして、ちらり、とコッチを見る。
ナンなんだよ、それっ。
可愛いだろ。可愛いじゃないか。
絶対、意識なんかしてねえだろ。
ナンなんだよ、この無防備さは。
だからさ。
俺の手が毛利の肩に伸びたって、仕方ねえコトだろ。
仕方ねえよな!
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はあーーーっ。
今度こそ、俺は盛大な溜息を付いていた。
もう我慢も遠慮もいらなくなったからさ。
さっき、毛利の肩を掴んだまでは良かった。
そのまんま引き寄せて、チョイ俺が屈めば毛利とキス出来てた筈…だ。
それがなあ…うーん。
『そこに居るのは元就かい?』
『兄上、お帰りなさい。今日は早かったのですね』
『ああ、今日は定時で仕事が上がったのでね。それで、そちらは?』
『学校の友人で、長曾我部です。長曾我部、兄の興元だ』
『ちょっ、長曾我部ですっ、はっ、初めましてっ』
後ろから掛けられた声に、全身が一瞬で硬直していた俺は。
しどろもどろで挨拶してた。
何しろ、あと何分…イヤ、何秒の差でヤバいトコを。
お兄さんに、目撃されたかもしんねえだったんだから。
背中は冷や汗で一杯だった。
やっぱ、ヤバいだろ。家族に見られたら。
しかも、毛利の兄さんからしたら俺は初対面の人間だ。
初っ端から、不審で警戒されたら…ヤバいヤバい。
お茶でもと言われたけど、電車の時間がとかナンとか言って。
俺は速攻で帰って来た。
お兄さんに米搗きバッタみてえな挨拶をして。
…印象、大丈夫だったか…はあ。
毛利がバタバタとした俺に、何も言わなかったけど。
いつもの無表情ではいたけど、ナンか困ったような顔のカンジがした。
またな、ってそれだけ言うのが精一杯だったしな。
あとで、メールしてちゃんとフォローしとこ。
早足だったのをスピードを緩めて歩く。
今日、一日を振り返ると嬉しさで顔が緩んでく。
毛利とのデート。
2人きりでいた時間を思い出すと、嬉しくて仕方ねえ。
焦りは禁物は、悪友達から釘刺されってから判ってっけど。
もっと、毛利とお近付きになりてえよなあ。うん。
少しずつ夕暮れになってく道を。
駅に向かって、俺は毛利のコトを考えながらスキップしてた。
2011.05.13 back
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