orange 〔9〕


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理性と感情
優先すべきは前者であり
その姿勢を取っていた
反転する事など考えた事は
一つも無い、無かった

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『良かったよ。元就に友達が出来て』

先程、兄上に言われた言葉が頭から離れない。
安心した顔も。
心配を掛けないようにとしていたが、どうしても心配はされてしまうのは仕方がない。
それは判っている。
年齢が離れている弟の我を兄上は、とても気に掛けてくれている。
判っているからこその堂々巡りになるのだが。

――友達

つまりは、他人との関わり合いだ。
それが、兄上に安心をもたらしたのだと判り。
我は複雑な…奇妙な気分になった。

長曾我部と一日いて楽しかったのは、本当だ。
長曾我部に告げた言葉も、本心からのものだ。
嘘は無い。
しかし…。
それは、友達だから…なのか。
長曾我部の言う【付き合う】は、こういう事なのか。

納得は出来る。
ただ、納得も出来ない何かがあるような…気がする。
それは、一体何なのだろうか。
はっきりとした答が出てこない。
それが、何故なのかも判らない。
長曾我部は…判っているのだろうか。


止まってしまっていた手を動かし、再び明日の授業の用意をする。
教科書類を仕舞った鞄を机の上に乗せ、我は布団の中に入った。
いくら考えても答の出ない事に一旦切りを付ける為に。
眠る事で解決する訳では無いのは、判っている。
けれど、身体は今日の外出の疲れで睡眠を要している。

瞼を閉じると。
長曾我部の笑っている顔が浮かんで、消えた。


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朝。
長曾我部をいつもの待ち合わせ場所で待っていると。
携帯のメールに、寝坊したので先に行って欲しいとの連絡が入った。
珍しい…いや、初めての事だった。
大抵は、電車の時刻の関係もあるのだろうが、長曾我部の方が早い。
先に待っている。我を見ると手を振ってくる。

……仕方ない。ここでこうしている訳にはいかぬし、遅刻をしてしまう。
了解したと返信をし、我は学校へと先に向かった。


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二時限後の中休みに。
授業中、長曾我部の事が気になり、長曾我部の教室へと我は出向いていた。
顔を見なかった事に、落ち着かなくなっているのか。
いつの間にか、朝に長曾我部の顔を見て、通学する事に慣れ。
それが日常となり、それが無い事で落ち着きを無くしているのか。

あまり、認めたくは無い。
無いが、こうして長曾我部の教室へと歩いている事実に。
我は拳を握っている。

一目顔を見て、言葉を少しだけ交わせれば気が済む。
そう己に言い聞かせ、到着した所で一息付いて、教室の中を見ようとした。
その時に。
長曾我部の声と他の複数の声が聞こえ、我は動きを止めた。

「…大変だったんだね、お疲れさま」
「うん、まあ、大変つーか」
「よーく我慢してるよな、お前が。俺にはそれが驚きだぜ」
「ああ、我慢な、うん」
「あの毛利さん相手だしね」
「そうそう」

己の名が会話の中に出てきた事に驚き、その場に固まってしまった。
それから…【大変】【我慢】の言葉が、耳の奥に残った。
好意的なものでは無い。違うものだ。

「でも、頑張ってね」
「毒を食らわば皿までってゆーだろ」
「わっ、その例えはちょっと」
「Ha、コレぐらいが丁度だろ」
「お前等、あのなー」

口元を押さえ、我は張り付いていた足を無理に動かし、その場を後にした。
鼓動が耳に付く。動悸が激しく、耳に痛みを覚える。
やはり、と思えた。
そうなのだ、と聞こえてくる。
期待をしていたのだ、我は。
長曾我部に。
嬉しいとは、その先をも望んでいたのだ。
己からは認めず、否定を繰り返しても、それを長曾我部に肯定へと覆されるのを。
我は、ただ待っていた。
長曾我部は何も悪くは無い。
問題は、我自身にある。


教室に戻り、その儘授業を受けるつもりでいたが。
教科の教師に、顔色の悪さから体調不良ではないかと指摘され。
この日、促される儘、我は早退をした。





2011.05.16
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