花の名前 雛菊
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今は子供だが
いつまでも子供の儘ではいない
子供は成長する
砂糖菓子の様な少女へと
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俺の名前は、長曾我部元親。
職業は、執事。代々と脈を打つ名門毛利家の。
毛利の家は財閥で、俺の家はそこに仕える執事の家系で世襲制だ。
けど、俺が執事の就いたのはそんな理由じゃねえ。
家も親父も関係ない。
俺の意志で、選んだ。
この家の跡継ぎのお嬢様、元就の為だけに。
俺は元就の執事になった。
元就とは、ある意味幼馴染みだ。
5歳年下、元就が産まれた時から知っている。
俺の物心が付いた時から、元就に仕える事を徹底教育されていた。
なもんで、俺も素直に元就を守るのは俺だと息をするのと同じく自然に思っていた。
勿論、それは今でも思っている。
俺に取って、元就は揺るがない存在だからな。
元就は元から綺麗で、成長に伴って磨きが掛かっていき。
もうすぐ18歳の誕生日を迎える今、欲目も加えて、元就は本当に綺麗になっている。
毛利のお姫様。
躾も教育も行き届いてるからな、中身も外見も完璧だ。
ただ少し世間ズレしてる。他人の感情に疎く、しっかりしてるようでおっとり。
天然系で一本抜けているのに、本人の自覚ナシ。
そんな元就が俺に向ける信頼は心地良かった。
無条件に懐き、無邪気さを預けきってくる。
真っ直ぐに俺を見上げる元就が、愛おしくなるのは当然の成り行きだった。
俺に取って、元就は特別な存在になっている。
ただ。
それを表に、口にする事はないんだけどな。
口にしないと決めていた。
元就は俺の主人であり、俺はその執事だからな。
分は弁えているんだよ。
俺はそれで良いのさ。
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「長曾我部」
「はい、お嬢様」
氷の無表情。
跡取り教育の賜物で、簡単に感情を外に出さない元就だけど。
俺には気安さもあって、ほんの少し微妙に表情が動く。
元就は俺に『お嬢様』と呼ばれるのを嫌う。
子供の時と同じく『元就』と呼んで欲しがっている。
けど、そんな事は出来ないだろ?
だから、俺が折れない事に『お嬢様』という言葉に。
元就の形の良い眉は顰められる。寂しそうな瞳で。
「ご用事ですか?」
「だから、呼んだのだ」
「はい、何でしょうか?」
「ドレスが届いた。試着をしたい」
「だから?」
「手伝え、今直ぐにだ」
「判りました」
元就の18歳の誕生祝いのパーティが、近付いている。
内外へのお披露目も兼ねているから、かなり盛大なものだ。
その時に着るものが、ドレスなんだよな。
元就だったら着物かと思っていたんだが、元就自身がドレスを強く希望した。
しかも、そのチョイスを俺に任せてきた。
何でだ? と、疑問には思ったが、元就のお願いをきかないワケにはいかない。
何だかんだと言って、俺は基本、元就には甘いんだ。
内心でデカイ溜息をついて、俺は元就の後を付いて行った。
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プリンセスラインのロングドレス、色は薄めのグリーン。
丈は膝が隠れるぐらいで、斜め後ろへとドレープを流してある。
ウエストを絞り、胸元をしっかり隠してある分、肩はざっくりと見せてある。
元就の身体の線を強調させず、品良く着こなせる物を選んだ。
「良くお似合いですよ」
「そうか」
「ええ」
「…なら、良い」
言葉数が元から少ない元就に対し、俺は余計な事を口にしたくないから。
会話が簡潔なものになる。
けど、心ん中では元就のドレスアップに感動していた。
ここまで大きくなっていたんだなあ、と。
小柄で細っこくて、いつまでもちっちゃなイメージがあったが。
ちゃんと、成長していたんだ。子供じゃなくなっていたんだ。
…なんて、親的発想ならいいんだけどよ。
背中のファスナーを上げてやる時に見た、背中の白さ。
邪魔にならないよう髪を片手で上げた、元就の仕草。
首も肩も細いし、頼りなさを感じるが、柔らかそうで。
触れてみてえ、と思った本気を抑えるのに苦労した。
可愛いだけだった元就が、綺麗になっている。
俺はドコまで、自分を押し殺せていけるんだろうなあ。
元就からは見えない背後で、俺は自重気味に笑った。
「長曾我部、これは何ぞ?」
「はい? ああ、ガーターベルトですか」
「これも身に着けるのか?」
「はい、足にですが」
いつの間に、手に取っていたんだか。
元就はそれを暫く見つめてから、俺へと振り返った。
そして、ひとつの命令を俺にした。
「付け方が判らぬ。だから、長曾我部が我に付けて教えるように」
「はい、お嬢様」
俺は動揺を抑え込んで、その命令に従った。
2011.04.01 back
元親×♀元就、現パロ、22223打キリリク話
元親視点、財閥お嬢様ナリとそれに仕える執事チカの物語