花の名前 桔梗
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いつまでも子供ではいられない
子供の儘では得られなくなる
だから成長を望んでしまう
大人になりたいと切に願う
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毛利の家に生まれ、それを享受するのは当然の事。
我の義務であり、苦になどなるものではない。
その為に、幼い時から教育を受けてきていた。
我は毛利の跡取りなのだから。
そして、その我の傍らにいるのが元親だ。
物心付いた時から、我の手を握っていてくれた存在だ。
優しく、厳しく、頼れる者だ。
我に忠誠を誓った者だ。
決して、離れないと。裏切らないと。
そう、我に傅いた者だ。
明るい銀の髪。
見上げる高い背。
澄んだ蒼の眸。
いつも微笑んでいる。我に向けて。
そんな元親が我は好きだった。
どんなに幼くとも、己の心は判る。
我に取って、その感情は元親一人だけだ。
執事として。
そして何よりも、一人の大人として。
他の者と比べるべきものではない。
たった一人。それだけで良い、のだ。
なのに。
それが、元親に届かぬ。
届かせてくれぬ。
高い背だけでなく、我の手が決して届かぬように距離を取る。
主従を建前にし、それを口にする事もせず、ただ壁を作る。
それが嫌で、子供の時は何度も元親の胸を叩いたが。
開けてはくれなかった。
今も、開けてはくれないでいる。
執事の顔で。
『元就』から『お嬢様』と呼び名を替えて。
我へと微笑んで。
だが、それは誰が享受するものか。
我は認めぬ。
認めぬと言ったら、認めぬのだ。
我がそう決めたのだから、覚悟せよ、元親。
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一枚も二枚も上なのは、判っている。
元親は、我の言動を知り過ぎている。
幼い頃から傍にいる為だ。
半分以上、元親に育てられたと言っても過言ではないのだから。
こればかりは、仕方が無い。
だからと言って、諦める気はない。
元親を他の者に渡す気もない。
元親は我のものなのだ。
そう決めてあるのだから、あとは実行のみなのだ。
だからこそ、慎重に策を練る必要がある。
元親の本音を引き出し、我との関係を認めさせる。
その為なら、我は…。
多少の難儀な事でも、実行してみせる。
そう決心をして、我は計画を遂行する事とした。
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意識をしてくれれば良いと、思った。
我を子供の儘ではなく、成長をしているのだと。
元親に知って欲しかったのだ。
だから、多少の思い切りは必要だ、と考えた末に。
我は元親にドレスを選ばせ、試着の手伝いをさせている。
しかし、この事にかなりの羞恥を感じてしまうのは。
全く以て、計算外だった。
下着を着けていても、肌を晒す事が恥ずかしい。
元親の手が、指が、時折触れてくるのに緊張する。
ドレスを着せているのだからと、いくら己に言い聞かせても。
全部の神経が、元親へと向かってしまう。
なのに、我がここまで譲歩しているというのに。
元親の態度は、いつもと変わらない。
我は未だに、元親の中では子供の儘なのだろうか。
夜着を着せて貰った子供の時と同じなのだろうか。
嫌だ。
我は元親が好きなのだ。
元親にも同じ様に思って欲しいのだ。
この儘では、嫌なのだ。
そんな思いに駆られ、目の奥がじわりと熱くなった時に。
我は一つの物に目がいった。
そして、それを手に取り、元親へと差し出した。
「お嬢様、動かないで頂けますか」
「…判っておる」
「動かれますと、付ける事が出来ません」
「…判っておると言うのだ」
己から申し出た事といえ、先程の比ではない羞恥が湧き上がる。
足を元親の目の前に差し出している姿。
そして、元親の手に支えられ、触れられている。
どうにも居たたまれないが、緊張で身動く事も出来ぬ。
「…長曾我部」
「はい、何でしょう」
「…あの」
「何ですか? はっきりと仰って下さい」
我の足の間に跪き、ガーターベルトを付け終えても。
執事の顔を崩さない元親の顔を。
我は顔が赤くなっているのを誤魔化す様に、睨み付けた。
2011.04.12 back
元親×♀元就、現パロ、22223打キリリク話
元就視点、お嬢様ナリの奮闘の回