花の名前 撫子


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どうしようもなく
気持ちばかりが先行して
それを必死に追い掛けて
伸ばした指先が届いたのならば
絶対に離さない

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元親、元親、元親…元親。
声で出せない分を我は何度も胸の中で、元親の名を繰り返した。
崩れそうな己の身体を叱咤する。
夢ではない。現実なのだと、言い聞かせる。
元親へと想いが通じた事。
そして、想いが返された事は本当なのだと。

初めての、口吻け。
爪先立ちをし、腰を支えられ、精一杯の背伸びをする。
我は必死で、元親の服を掴んでいた。

信じられぬ。信じていいのだろうか。
信じていいのだ、と。
頭の中がごちゃごちゃになっている。

悲しい程、届かないでいた距離が。
縮めたいと願っていた距離が。
一気に霧散して、元親の腕の中に抱き締められている己に。
ひたすら驚いてしまっている。
叶えられた嬉しさと相俟って、我は身体が震えているのに気付いた。
そして、息が苦しくなっている事にも。

「――大丈夫か、元就」

口吻けから解放され、息が吸える。
多少咳き込みながら、呼吸を整える。
その我の身体を支えながら、元親が耳元へと心配気に囁いてきた。

「………平気、ぞ」
「ホントか? フラフラしてるぞ」

笑いを含んだ声に反論しようとしたのと同時に。
耳朶を噛まれ、我は身体を跳ね上げた。
あまりの事に、緊張が高まる。

「な、何を…」
「愛撫」

今、何を言われた…。
波が引く様に、頭の中から思考が抜けてゆく。
思い切り顔を上げると、そこには元親の顔があり。
その顔が…執事のではなく、いつもの大人のであり。
今までに一度も見た事の無い、男性を意識させる顔があった。

「元就がまだこういった事無理なのは判ってるからさ」
「…む、無理などしておらぬ」
「背伸びしすぎると後で恐い思いするんだぞ」
「そ、そんな事は…無い」
「あるんだって。俺に意地張ったって無駄無駄」
「こ、子供扱いするなっ」

まだこの期に及んで子供扱いを止めない元親に、憤りを感じ。
子供染みていると判ってはいても、語気が強くなる。
違う。こんな言葉を言いたいのではない。
我は。
我は…元親に。

「してねえよ、子供扱いなんてしないって」
「も、元親?」

からかいの一切含んでいない物言いに、目を瞠ると。
もう一度、重ねられてくる唇。
我は、ゆっくりと瞼を閉じた。
先程みたいに息苦しならない。啄む様な口吻けが繰り返される。

安心感が生まれる。
我はずっと、こうして貰いたかった。元親に。
我として扱って欲しかった。主従ではなく。
我を一人前の女性として。

「だからな、元就」
「……何ぞ」

口吻けにぼんやりとしていた所に、又囁かれた。
元親の低い声が、心地良い。

「それでも一変には元就の方が無理だろうから、少しずつ教えてやるよ」
「…何をだ」
「慣らしてやる」

え?
何をだと、もう一度声にする前に。
その場から抱き上げられた。
背中のファスナーが、いつの間にか下ろされていて。
身に纏っていた、ドレスが足元へと落ちていく。

つまり、我は…下着姿のみで…。

その事実に気付き、羞恥で血が沸騰したが。
言葉は出てこなかった。
完全に我は元親の抱き上げられた腕の中で、硬直をしていた。

「安心しな、元就は寝っ転がってるだけでいいからさ」
「………」
「ジッとしててもいいけど、我慢出来なくなるまでシテやるからな」

な、何をだ。何をだ。
何をすると言うのだ。

「暴れても泣いても、するからな。覚悟しろよ」
「………」
「元就が後悔しても、俺は止めないからな」

誰が。
誰がするものか。我を甘くみるな。
元親の言い放った勝手な言葉に。
我は心底、胸が震えた。喜びに。

言いたい言は、山のようにあったが。
出来ぬ分、我は緊張で固まっていた腕を何とか動かし。
元親の首へと回して、離れてやらぬ、と。
この身を預けた。

元親が良いのだ、我は。
それを理解しろ、と。
我はうっとりと、元親の腕に抱かれ目を閉じた。





2011.04.25
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元親×♀元就、現パロ、22223打キリリク話
元就視点、念願叶ったけど、どっちもこれからが大変ねの回(笑)