曼珠沙華【2】
by 遙か
前髪を無造作に掴み、顔を持ち上げると。
急激に掛けられた力への痛みにか、八戒は小さく呻いた。
だが、意識は戻りそうにもなく目は閉じられた儘だった。
悟浄の空いている方の手が、空を切った。
パシッ――と、小気味良い音で。
八戒の頬を掌で、確実に叩き始めた。
その連続した容赦の無い痛みに、とうとう。
八戒は覚醒したらしく、首に力が入った。
目頭がピクピクと動き出し、薄く開かれた唇から。
呼吸が吐き出された。
それを確認した悟浄は、八戒の前髪から手を離して。
ベッドから降りた。
向かい合った、真っ正面。
椅子を一つ持ち出し、悟浄は座った。
八戒の今の姿を全て視界に収めて。
頭が上がるのと同時に、肩も動く。
まだ腕が縛られて動けない事には、当然気付いていない。
小さく、頭が左右に振られた。
序々に、動き出した八戒を。
悟浄は薄笑いで、見続けた。
目が覚めた時の、八戒のパニック状態が容易に想像出来る事が。
楽しくて仕方ないといった、目で。
そして、期待に満ちた紅い目と。
まだ何も知らない翠の目が、とうとう交錯した。
「ごじょ…」
ぼんやりと、渇き切った掠れた声を八戒は出した。
その声に反応したように、悟浄は立ち上がり。
無造作に八戒へと近寄り、顎を掴んで上げさせ。
水を口移しで飲ませた。
八戒の喉がも、素直に鳴る。
冷たい水が、嚥下されていく。
飲みきった所で、悟浄は八戒の下唇を強く噛んだ。
「…っ!」
突然の痛みに、八戒の眉がきつく寄せられた。
噛まれた所が切れ、血が滲み出す。
その赤い色が、痛々しさを強調していく。
「な、に…を」
「お仕置きv
いっつまでも起きねぇんだもん。俺を待たせたバツv」
悟浄の言っている言葉が、上手く頭に入らない八戒は。
目を見開いた。
冷たい響きの言い方にも、驚いて。
「八戒v」
「…はい?」
「そろそろ、ちゃんと目ぇ覚まさねぇとヒドイ目に合っちゃうぞv」
「ごじょう?」
くくくっ、と。
目の前で笑い出した悟浄に、八戒は。
自然と、自分が身震いをするのを感じた。
【続】
モドル