リフレイン



by 遙か



天上から降り注ぐ 幾千本の銀の糸
時間と空間を 遮断して…

†††††


―――ピンッ!

「鍵、開きましたよ。」
「流石、いつでも転職出来るな、お前。」
「…馬鹿言ってないで、早く入りましょう。
 これ以上、濡れるのはご免です。」
「そうだな。」

自分の軍服を頭から被せてはあったが。
長時間、雨の中を迷子していた身としては。
一刻も早く、屋根のある所で雨宿りをしたいのは当然です。

別に甘くみていた訳ではないのですが。
恒例の軍事演習中に、2人して見事に隊からはぐれてまして。
別に慌てる事もなかろうと、気楽に構えていたらば。
日が暮れ始め、雨が降り始め。
―――ここで、やっと危機感を覚えまして。

何処かの誰か様の別荘らしい建物に、無断侵入を果たした所でした。

「大丈夫か、天蓬。」
「ん〜、寒いです。」
「待ってろ。
 どっか、落ち着ける部屋を探してくる。」
「は〜い、待ってます。」

ズカズカと、玄関から建物の中へと捲簾は入って行きました。
暫く、ポツンと大人しく待っている天蓬が『くしゃん』と。
くしゃみをした所で、捲簾が戻って来ました。

「暖炉のある部屋を見つけた。
 早く来い。」

寒さで震えている天蓬の肩を抱いて。
捲簾は、さっさと連れて行きました。

「…本当、手際良いですね。貴方って。」
「慣れだろ。」

すでに、暖炉の火はおこれていて。
部屋の暖まってきている空気に。
天蓬がホッと一息をついた時には。
水分を含んだ服は脱がされ、毛布でくるまれ。
暖炉の前に、座らされて。
今、真っ正面で向かい合いながら、眼鏡を外されて。
髪を丁寧に拭かれている、真っ最中でした。

「まだ寒いか?」
「ん〜、だいぶ温まりましたけど。」
「唇が…紫、だな。」

捲簾が天蓬の顎を掬い取り、まだいつもの色に戻っていない唇に。
自分の唇を重ねました。
下唇を甘く噛み、舌先でチロチロと舐めて。
開き始めた唇の中へと入り込み、舌を絡め合わせて…。

天蓬の両腕が、しっかりと捲簾の首へ回った事が。
合図となって、2人は抱き合った儘。
床へと、躯を倒していきました……。


†††††


暖炉の火よりも、熱い時間を過ごして。
引いてゆく熱を感じながら、天蓬は捲簾の腕の中で微睡んでいました。

寝苦しくない様に、それでも離さないでいる捲簾の腕に、
クスリと笑って、天蓬は身動きました。

「目、覚めたか。」
「えぇ、少しだけ…。」

結界で守られている様に、安心しきっているせいか。
天蓬の返事は、ぼんやりとした感じのものでした。
そんな天蓬を引き寄せて、捲簾は髪を撫で始めました。

「温まったみたいだな。」
「…熱かった、ですから。」
「俺も、だ。」

囁かれて、天蓬が首を竦めた所で。
捲簾は、再びキスをしてきましたが。
今度は、官能を誘う様なものではなく。
ただ、存在を確かめる様な、軽く触れてくるものでした。

「ん〜、熱すぎた様な気もしますが。」
「大事な元帥をこんな所で、風邪を引かす訳にはいかないからな。」
「軍思い、ですねぇ。」
「いーや、お前想いさ。」
「歯が浮く台詞をありがとうございます。」
「いやいや、お前の為だったら幾らでも。」
「大安売りですか。」
「豪華一点モノだぞ。」
「おや、それは光栄な事ですね。」
「そうそう、有り難く受け取っておいてくれ。」

ポンポンと、返される2人の言葉遊びが続けられていました。
外は雨の儘、一向に止む気配はありませんでした。

「―――止みそうも、ありませんね…。」
「ああ。」
「捲簾。」
「なんだ?」
「お腹が空きました。」
「あ?」

真剣に、空腹を訴えてくる天蓬に。
捲簾は、一瞬目を丸くして破顔しました。
上司さえも有無を言わせず黙らせる、恐いもの知らずの元帥の。
こんな顔を知っているのは、己だけだという優越感に。

「一寸、待ってろ。」
「?」

捲簾が腕を伸ばして、天蓬の脱ぎ捨てられていた軍服の上着を。
掴んで引き寄せて、ごそごそと何かを探し出しました。

「ほら、お前のタバコは無事だ。
 これで、我慢しろ。」

暖炉で火をつけたタバコを天蓬に銜えさせ。
捲簾はその貰い火で、自分の分にも火をつけた。

「仕方ないですから、これで我慢してあげますよ。」

楽しそうに、合わせた目で笑う2人の間に。
紫煙が、ゆらゆらと立ち昇り。
雨の音が、この場を包む様に。
繰り返し繰り返し、いつまでも……聞こえていました―――



2004.11.17  UP



☆ コメント ★


misoさまに捧げますv

相互リンクのお礼で御座いますvv
misoさんと2人で相談して、お題を決めました

『煙草と雨とエロ』

私が捲天担当で、misoさんが浄八です♪
あ〜、とっても楽しかった〜うふふ
例え、お題がクリア出来ていなくても(苦笑)


ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪




モドル