不器用なボクラ
by 遙か
カン違いなんかじゃねぇ
一目、見た時に感じたあん時のキモチは
そう、俺だけじゃねぇ筈
点と点を結ぶよーな
俺とアイツを繋ぐラインを見たのは
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新しいバイトを始めたのは、春の終わり。
珈琲専門店のウェイター。
コーヒーを運ぶのが主な仕事で、オーナーの主義なのか。
客層が大人しい、つーか。無口、つーか。
物静かな雰囲気の店、だった。
無駄口を叩く気も起きず、俺も自然と。
接客以外の口は、あまり開かなくなっていた。
初めは、仕事自体を覚えるのに夢中で。
周囲のコトに目を向けられるよーになったのは、バイトを始めてから一週間過ぎた頃。
んで、気が付いた―――気になった常連客が一人。
いっつも、本を読んでいるんだよなあ。
いっつも、違う種類のコーヒーを2杯、お代わりしてくるんだ。
髪が肩までのストレートの、野暮ったい眼鏡をかけた客が。
俺は気になって気になって、仕方なかった。
コーヒーを運ぶと『ありがとうございます』と、短く言葉にするんだ。
没頭している本のページから、視線を上げて。
少しだけ、口元を綻ばせてさ。
俺はその顔見たさに、その客へコーヒーを運ぶ権利は誰にも譲らなかった。
譲る気がなかった。
いっつも、俺の役目ってコトにした。
だから、顔を覚えてくれたんかな。
店に来た時は、軽く頭を下げての挨拶をしてくれるよーになった。
客と…店員の関係、だったけど。
俺は、満足してた。
電光石火の早業が、俺の得意とするトコなのにさ。
そんな気になれなかったんだよ。どーしてだか。
ずっと、このまんまでイーなんて俺にしたら、後ろ向き?
けど、急いでダメにしたくねぇって、思ったんだよ。
これってさ、大事ってコトだよな?
ウン…つーコトは、俺、惚れてるってコトになるよな。
名前も知んない美人サンに、面食いを証明するよーに。
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長身で、紅い髪。そりゃあ、目立つ事。
人の覚えの悪い僕でも、一発で覚えましたよ。
あのホスト…いえ、ウェイターさんは。
確か…マスターが『悟浄』って呼んでいましたね。
珍しいです。僕が人を認識するなんて。
言葉の単語とか耳に入っても、それが形を成す事があまりないんですよね、僕。
必要無いというか、興味無いというか。
面倒臭い…あっ、これが一番合っています。
そう、面倒臭いんです。人に関わるのって。
好意を持たれるのは、嫌いじゃないんです。
けど、それによって伸びる枝葉が鬱陶しいんですよね。
変人? ええ、それで結構です。
それで、向こうから一線を画してくれれば、楽ですもの。
研究室に籠もって、日々過ごすのが楽ですから。
そんな僕の日課の一つに、帰り道ある珈琲専門のお店に寄って。
珈琲を飲む事があります。
その日の気分で、種類を選んでお代わりする事が。
気分転換になるし、お店の雰囲気も味も僕の好みなので。
ほぼ毎日、通っていました。
そして、そこで今年の春から見掛ける様になった新人のバイトさんが。
いつの間にか、僕専属係になっていたらしいのに気付いたのは。
つい最近でした。
必ず、オーダーを取りに来るのは、彼。
運んで来るのも、2杯目のタイミングを読む取るのも、彼。
別に何か話してるって訳じゃないんです。
客と店員の、会話以外。
ナンパされる訳でも、僕の事を聞かれる事もありません。
ただ…彼が僕に向けてくれる笑った顔が、屈託がなくて。
良いですね…、思うのに、そんなに時間は掛かりませんでした。
人を―――誰かを好きになるって、こんなものかもしれません。
好きになるんじゃなくて。
好きになってしまう。
こんな自分に面食らって、何だか楽しくなって。
くすくすと、笑ってしまうんです。
そろそろ、僕の名前を教えてあげた方がいいですかねぇ?
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シンプルな、デートコース。
偶然、休日に街中で遭遇した2人。
暇だからを建前にして、本音の下心は未だ押し隠して。
名前を呼ぶのに困るから、名前を教えてと悟浄が言って。
天蓬が渡りに舟とばかりに、教えて。
本屋に行って、雑貨屋に行って。
紅茶専門店のカフェテラスで、一休みして。
たわいのない会話の中に、相手を知って。
そして、密かな満足感を得る。
―――偶然が、必然に、なってゆく……
「…じゃあ、ここで。
今日はありがとうございました。楽しかったですよ。」
「ん。俺も楽しかった。一日、サンキュv」
駅でそれぞれ反対方向の為、階段の所で話す2人。
家まで送ろうかとか。ホームまで見送りにとかは、行かないで。
感謝の意を込めた握手だけを交わす。
今はまだ、伝える事は口にしないで。
心の中だけで、そっと抱き締める。
いつか、もっと。
より近い存在へと、思い描きながら。
「…おやすみなさい。」
「おやすみ…。」―――と。
2005.9.6 UP
☆ コメント ★
あゆりんさまに捧げますv
ずっと長い間参加していた最遊記の恋愛ゲームのラストに
一緒に参加して、ナリキリの浄天で恋人同士になって
過ごした時の想いを、書き上げましたv
内容はゲームとは関係なく、パラレルなんですが
ゲームといえど、ドキドキする気持ち
毎日が楽しくて、色んな事があっても、幸せで
心からのありがとうをウチの悟浄から(笑)
ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪
モドル