時の贈り物
by 遙か
忘れないで、ね
覚えていて、ね
でも
忘れていい、わ
覚えていてくれなくても
ふふ どっちも嘘で――どっちも本当、よ
悟能 貴方は どう 選ぶのかしら
††††† †††††
花喃との思い出は、最初に浮かぶのは笑顔で。
最後に浮かぶのも、笑顔、なんです。
ただ、その笑い方は全く違うものですけど。
時間を巻き戻せるのなら、一番最初にと願う僕は。
きっと、傲慢なのでしょう。
そんな事をしても。
運命はあの時間を僕に、与え続けていくでしょうから。
花喃。
…僕のたった一人の、人。
細胞の全て、一つ一つを分け合って生まれた僕等。
離れたくなんか、なかったのに。
生まれた事で、別々の肉体へと離れてしまって…。
それが、幸福と不安を生み出してしまったのかも、ね。
今――思うと。
花喃… 花喃
花喃、花喃、花喃……………
もぅ、僕の中に残っているのは。
君の名前、だけ。
どうして、あの時に僕も殺してくれなかった、の?
僕だけ、生きろって…言うのかい。
―――僕は 君を 恨んでしまいそうだよ…花喃
††††† †††††
…あ〜ぁ。アイツ、又ねぇちゃんのコト、考えてんな。
真っ暗な窓の外を見ていっけど、実は見てないって時は。
いっつも、そう。
俺が声掛けりゃ、俺の名前を呼んでにっこりと笑うんだろーけどネ。
心は半分以上…持ってかれてる。
夜に雨が降ると、まるでやんなきゃいけねぇ儀式みてえに。
八戒は、ぼんやりとする。
感情のナイ義眼と、感情を捨てた片眼で。
以前は、肩を揺さぶって。
俺へと、乱暴に意識を取り戻せてたけどさ。
逆効果だって、気付いてからヤメた。
アイツ…俺への罪悪感を増幅させんだモンな。
ナニが悪いなんて、ひとつもネーのに。
アイツが、ねぇちゃんを助けに行って、助けられなくて。
目の前で死なれたのは、アイツのせいじゃねえ。
死にたかったのに、死ねなかったのは俺のせいだけどな。
―――コーヒーでも淹れてくっか。
††††† †††††
あ……珈琲の香りがします。
…悟浄が淹れてくれているんですね、きっと。
以前だったら、僕の首がもげそうな勢いで肩を揺すられて。
現実に戻されていましたね。
あの人、乱暴なんですよ。
手加減ってものが無いんですから。くす。
いつも、こうなんです。
僕は、悟浄の事を考えると笑う事が出来る様になりました。
悟浄の事を思えば、帰って来られます。
あの、ただ暗いだけの深淵の縁から。
花喃を過去に。悟浄を現実に。
僕は戻れる様になりました。
人の痛み。自身の痛みは。
その本人にしか、判らない。
下手な慰めとか同情は、逆撫でされてしまうんです。
僕はそんなの欲しくないんです。
元々、あまり欲もありませんし。
だから、一つだけ。一番欲しいものだけが。
手に入っていれば、いいんです。
―――悟浄、貴方もつくづく貧乏くじを引く人ですね。
捨てておけば…関わらなければ良かったのに…僕に。
本当にお人好しで、馬鹿で…。
だからこそ、愛しています。
悟浄。僕は貴方を。
††††† †††††
頃合いはイーみたいだな。
ひょい、と。部屋を覗くと八戒は、本を読んでいた。
淹れたばっかのコーヒーを2つ。
零れないよーに手に持って、俺は足音を立てて部屋の中へと入った。
「八戒〜、コーヒー飲まない?」
「はい、頂きます。悟浄。」
しおりを挟んで、本を閉じて。
俺へと顔を向ける八戒は、いつもの俺の八戒だった。
全てを吹っ切れたワケじゃネーけど。
最後は、俺のトコに必ず帰って来る、八戒。
俺は決して消えナイ焦燥感を優越感にくるんで。
八戒へと、笑い返す。
どう転がるか判らない未来を抱えながら。
俺は今の幸せを――八戒を抱き締めて。
2005.11.29 UP
☆ コメント ★
時音さまに捧げますv
去年の八戒さんの誕生日の企画にリクエストを頂きました
はい…今年の誕生日を過ぎてから、書き上がりました(汗)
ごめんなさい〜★
BGMは林原めぐみさんの『おもかげ』ですv
とても切ない歌詞です
…悟浄と八戒、悟能と花喃の交錯した想いが浮かびました
如何なものでしょうか(笑)
ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪
モドル