紅ノ葉
by 遙か
秋の長雨
だけど 空だって
雨降りばかりじゃ退屈するらしい
ほら
真っ青な色が 広がっている
**********
「さあ、悟浄。
起きて下さい。良い天気ですよ。」
バサッと、軽快な音を立てて毛布がひっぺがされた。
毛布の中の程良い薄暗さから、いきなり放り出された俺は。
一瞬、ナニが起きたんだか把握出来ずにいた。
「目、覚めましたか?
早く顔を洗って、ご飯食べちゃって下さいね。」
―――うーーん、と。えーーっ、と。
八戒の対応がいつもと一寸違うのに。
俺は未だ働かない脳みそを無理に動かした。
…ナンかあったっけか???
「今日は晴れたらドライブに連れて行ってくれるんじゃなかったんですか?」
あっ!!!
「違うんですか?」
「違わないっ!
直ぐ支度すっから、待ってろっ!! 」
俺はベッドから飛び起きて、洗面所へと走り出した。
一分一秒でも、惜しくって。
**********
はぁ…寝起きが良いですよね、悟浄って。
さっきまで、ベッドの上で胡座をかいて、寝惚け眼で頭を掻いていたのに。
くす。
あっという間に、部屋から飛び出して行っちゃいましたね。
悟浄は嫌がりますけど、本当に悟空と兄弟みたいに。
こんな所が、良く似ています。
昨夜…と、言っても午前様ですが。
微酔い加減で帰って来た悟浄は、待っていた僕の顔を見るなり。
『明日、晴れっから出掛けるぞっ!』
と、宣言をしてくれました。
晴れるなんて、どこにも保証は無いのに。
僕が――長雨で鬱になって――沈み込み気味なのを。
何も言わず、察してくれて。
だから、僕も思わず嬉しくて。
『はい、お弁当を作りますね。』
と、返事を返しました。
朝。カーテンの隙間から陽の光が差し込んでいてくれたのが。
本当に嬉しくて。
悟浄の執念って凄いですね、と感心しながら。
僕は、悟浄の好物ばかりのお弁当を用意しました。
判ります、悟浄?
とても、楽しみにしていたんですよ、僕は。
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「うわあ、綺麗ですねえ。」
隣で、子供みたいにはしゃぐ八戒の声を聞きながら。
俺はジープを走らせていた。
俺が八戒をドライブに連れて行ってやりたかったんで。
ジープを『八戒が喜ぶぞ』と、説得して運転手となったワケだ。
夕べ、賭場で聞いた情報。
今が紅葉の見所だってゆー場所に、八戒を連れて来た。
長雨で『大丈夫ですよ』と、俺に心配をかけネーように笑う八戒を。
気分転換も兼ねて、どっか連れてってやりたかったんだ。
俺はドコでも良かったんだけどさ。
どーせだったら、八戒が喜んでくれそーなトコがイイよなって。
だから、この場所を聞いた時は渡りに船だったってワケだ。
「気に入った?」
「はい。」
「楽しぃ?」
「はい。」
ニコニコと、明るい声で返事を返してくる。
この数日のウツだった表情が、ウソみてぇ。
出掛けてきた甲斐があったなあと、俺は口元が緩んだ。
「悟浄。そろそろ、お弁当にしませんか?」
「そーだな。じゃ、場所探すか。」
「はい、そうしましょう。」
**********
「美味v 八戒、美味いよ、これvv」
良かった。こんなに喜んで貰えるなら。
早起きして作った甲斐があります。
ジープも、ジープ用に取り分けた小皿の料理をせっせと食べてくれています。
悟浄が穴場だからと、連れて来てくれた場所は。
本当に観光スポットから外れていて、周りに人がひとりもいなくて。
ただ、風の音。鳥の声、とか。
自然の音だけが、聞こえてくる場所でした。
そして、目に映るのは緑から赤へと姿を変えてゆく途中の。
木々の葉たち。
深く深呼吸をして、目を開けると。
悟浄が一寸、心配そうに僕を見ていました。
「どした?」
「…幸せ、だなって。」
「幸せ?」
「貴方とこうして過ごせる事がです。」
破顔した悟浄の腕が伸びてきて、僕を抱き締めました。
キスをする為に、目を閉じる前に見たのは。
僕の一番好きな、たった一つの紅―――――
2005.12.04 UP
☆ コメント ★
相上さまに捧げますv
本当に申し訳ないのですが、相互リンクのお礼で
リクエストを頂いていたお話です(汗)
『58のドライブ』との事で、季節外れですが
秋の紅葉を――と、設定してみました(笑)
この2人には、もう紅の色は罪の色じゃないんだなあ、と
幸せなお話を書きたくて、書きましたv
ではでは、慎んで贈らせて頂きます♪
モドル